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山賊の弟たばこ面白い話雉になった娘

 

山賊の弟

 

 そりゃぁ、仏をよく信仰する家だったんだが、まぁ、その家に夫婦と息子が一人、三人で暮らしておった。その家内が死んだもんだけぇ、いごずれ(後添い)をもろうた。それに、また一人息子が生まれたんだが、その息子を残して、そのいごずれものうなった(亡くなった)

 兄ぃのぶんは、百姓をするいうてもやれず、木こりや炭焼きををやっとたんだが、根性も悪うて、手に負えんやつだった。おらぁでるけぇ、いうて、旅に出てしもうた。

 ほいで、次郎たらいう弟が一人残った、この弟は心の優しいええ男で、律義者(りちぎもの)だった。ところがそのうち、親父が死んだもんだで、和尚さんに来てもろうて、葬式をすませたんだが、貧乏だけぇ、後の供養が続かん。弟のぶんは、山の中におってもやれんけぇ、京へ出て、もうけて戻って、それで供養をしよう、思うて出ていった。

 

 次郎は力持ちで、重い桶とか米とかいうものを扱うのに、なかなかよくやるのを、酒を造る店の主人(あるじ)が見とって、

「お前、どこから来たんか」いうのに、

「わしゃぁ、田舎から出たものだが、まぁ、親が死ぬるもんだで、法要でもすりゃぁ思うたが、家が貧乏だで、そがぁに銭もなしすりゃぁ、法要ができんだで、このほうで一儲けさしてもろうて、法要しよう思いますが」いうた。ところが

「そりゃぁそうか。そりゃぁまぁええ心がけのものだが、ちょうど、酒の仕込みのときでもあるしすりゃぁ、お前、これへ来ててご(手伝い)をせんか」

「そりゃぁ、どこぞへ奉公しよう思うとっただで、そがぁ、使(つこ)うちゃんさりゃぁ、ようありますが」いうた。

「そんなら、そがぁしてくれ」ちゅうことになった。

 

 ところが、朝も昼も晩も、よくこまめに働いた。力持ちじゃぁあるし、やることも細かいところまで、ええ仕事をするしすりゃぁ、よほどその店でかわいがられて、働いておったところが、何年かたって、次郎のいうことにゃ、

「こんなぁ、大変かわいがってもろうとりますが、まだ死んだ親の供養をええせんこうおります。その供養をしちゃりたぁ思いますんだで、まぁ一つ暇をやんさらんか」

「そりゃぁ、この上はなぁ、ええ心がけじゃぁある。

 お前、長く、よう務めたんで、給金を十両ほどやろう。給金は給金だが、お前の心がけがよほどええ思うし、よう働いてくれたんで、もう十両やるけぇ、一緒に二十両持っていんでこい」いうた。

 

 次郎は喜んでそれをもろうて、いによったところが、山道にさしかかって、ように(すっかり)日が暮れた。日が暮れてどうにもならんようになって、まあ真っ暗じゃぁあるし、どっかで泊まらしてもらわにゃぁやれん。泊まるいうても、山を越えて町へ出るまでいうちゃぁ、なかなかやれんが、どこずに泊まるところはなぁか思うて、あっちこっち見よった。

 すると、山の中に灯がみえる。そいだで、ひとつあそこに泊まらしてもらおう思うて、その家へいった。家に着くと、器量のいい女がでてきた。

「今晩、わしは、この山を越そう思うたんだが、日が暮れてどがぁにもならんだで、どがぁず泊めちゃんさらんかいのう」

 女の言うことにゃぁ、

「こんなぁ、泊めてくれぇいうても、これにゃぁ、こがぁした山の中のほうにおるもので、何も食べるものもなぁし、どがぁすることもできんけぇ、まぁいにんさい」

「まぁ、あがぁ言わんこぅ、帰れいうても、どがぁもならんけぇ、縁の下のほうでもええけぇ、どがぁずまぁ、こいべほど(今夜だけ)泊まらしちゃんさい」いうて、

「まぁ、そいなら、こいべほどは泊まらしてあげるが、わしの言うようにせぇ。

 あんたぁのう。これに戸棚があるんだが、この中へ入っとりんさい。そうしてもらわにゃぁやれんのだ」

「はぁ、何がやれんのかな」

「いや、実は、これは山賊の家だけぇのう。実は男は今は出とるが、夜の明け方にゃ戻るけぇ。戻るときにゃぁ、あれは不思議なもんで、人気(ひとけ)のした時にゃぁ、すぐあれが知っとる。知ったちゃぁ、ありったけのものを取って、真っ裸にする。

 これまでそがぁしてやりよる。わしもまぁ、実はさらわれて、ここへ来て、仕方なぁ、ここへ居ついとるんだ」いうた。そいで、

「誰かがおるいうことがわかりゃぁ、殺さんばかりにするけぇ、わしがあこへ隠してやるけぇ」いうた。

「そりゃぁありがたいことで、そがぁしちゃんさい」いうて、次郎は戸棚へ隠れとった。

 

 ところが、夜明け時分に、その家の主人なるものが、戻ってきて、女に言うことにゃぁ、

「なんか今晩は、誰ずおるのぅ。誰ず、この道を通るものが、これへ寄っとるじゃぁなぁか」

 女のいうことにゃ、

「いや、そんなことはありゃぁせん。誰もきたものはおりゃぁせん」

「いいんや、なんかどこずにおる。お前は嘘をいいよる」

「わしゃぁ嘘はいやぁせん。嘘をいやぁあんたにしまわされる(やっつけられる)んだけぇ、嘘やなんず、いやぁせん」

「そりゃぁ、お前のいうことで、本当のことをいわにゃぁ聞かん」いうて、髪をつかんで、ひっぱりまわしたりしていじめた。

 そうしたところが、次郎がそれを戸棚の陰からみよって、女をいためるは見ることがたえ難いもんで、

「こんなぁ、ここにわしがおるんだが」いうた。

「おうお、みれよ、そこにおったじゃぁなぁか」

「これは実はわしが頼んで、泊めてやらんいうものを、無理にわしが頼んで泊めてもろうただけぇ、この人が悪いんじゃぁなぁ、わしが悪いんだけぇ」いうた。

「あぁそうか、そうか、そういうことか。お前どこのものなら」

「実はわしはこの峠を越して、どこどこまで帰ろう思うとる。京で奉公して、帰って親父の法事をしよう思うんだが」

「そうかそうか、それにゃぁ、お前が儲けた金があるんだろう。そりょぉ、みんなくれにゃぁいけん」

「そりゃぁ、わしも、ここへ二十両もっとる。十両ほどはわしが給金、あとの十両はお前は心掛けがええ言うて、十両くれたんだけぇ、そいだけぇ、二十両持っとる。

 これを持っていんで親の供養をしよう思うとる」

「そうか、そうか、そりゃぁええ心掛けだ。そいだが、二十両という大金を、お前持っとるということになりゃぁ、そりょをみんなわしにくれにゃぁいかん」

 男は、次郎がもろうた二十両の金をみな取り上げて、着の身着のまま外へ放り出した。次郎がいうことにゃ、

「戸棚の奥に錆びた刀があったが、あれをひとつやんさらんか」

「おう、そりゃぁそうよのう。二十両わしに置いてくれるんだけぇ、ありゃぁいなげな(つまらない)ものだが、どこぞでわしが取ってきたに違いない。

 そりゃぁ、お前がいりゃぁ、持っていきないや」

 

 次郎は裸で、錆び刀をもろうて外へ出たところが、外は真っ暗だで、どうにもしょうにもならん。暗うてやれんで、提灯をひとつ借りて、そいから山を越し始めた。

 しばらくして山賊のいうことにゃぁ

「そりゃぁ、あいつ、裸んぼうで、錆び刀一つ持っていぬりゃぁしたが、このままでおいたんじゃぁ、あの男が町へ出て、代官所へでも行こう(行くだろう)。代官所で、わしに二十両取られたいうことを言うてくれりゃぁ、捕り手が回るけぇ、あいつぅ、このまま生かしといちゃぁやれん」

 女は、

「まぁ、あがぁなことほどはしんさんな」いうて、よほど言うたが、

「なんぼ、お前が言うたけぇて、こがしといちゃぁあのものが町へ出て、代官所へ訴えたときにゃぁ、わしゃぁすぐやられるじゃぁなぁか」いうて、鉄砲を持って外に出た。

「提灯を持っとるけぇ、それを狙って撃ちゃぁ、殺せるけぇ」いうて、追いかけた。

 次郎は提灯を持っていきよったところが、どこからとなく風が吹いてきて、提灯の灯が消えてしもぅた。そいで、また真っ暗闇になって、しょうがないけぇ、大きな石の蔭でつくのうて(ひざをかかえて、かがみこんで)、夜が明けるのを待つことにした。

 山賊は提灯の灯もみえんし、次郎が見つからんもんで、しかたがなぁけぇ、女のところへ戻っていった。

 

 次郎は村へ帰っても、銭を盗られたんで、法事が出来んし、しょぅがなぁけぇ、寺参りや墓参りをして、また京へ出た。酒造りの店へ行って

「この前はいろいろお世話になりまして、お給金をもろうて帰って、法事をしようと思うとりましたが、途中でこういう事情で、山賊に金を取られて、何もないようになって、法事も出来んで、またここへやってまいりました。また奉公さしてやんさるいうことなら、奉公さしてもろうて、もうひとたび金を貯めて念願の供養をしてやりたいと思うとります」いうた。

「そうか、そうか、それは難儀なことだったよのう。

 そりゃぁ、お前が戻ってきてくれたいうことなら使(つこ)うてやるが」いうて、またそこで奉公することになった。

「わしゃぁあの時、この刀を、錆び刀じゃぁあるが、一つもろうて出ましたよの」いうたところが、

「そうか、それなら、その刀をみせてくれんか」いうて、店のあるじがみたところが

「こりゃぁ、ごつぅ錆びちゃぁおるし、痛んじゃぁおるが、どうも古いものらしい。古い刀をよう見る人がおるけぇ、わしがみてもろうちゃる」いうた。

 そうして、刀をみてもろうたところが、これが二つとない名刀だったもんで、百両で売れた。次郎のいうことにゃぁ、

「錆び刀を百両で買うてもろうたんで、さしむき念願しとる供養をしたあけぇ、帰らしちゃんさらんか。もう一遍、わしゃぁ帰って、供養を済ましてくるけぇ、それからまたここで使うちゃんさい」

「そりゃぁ、ええ心がけだ。そがぁせぇ」いうことで男はまた村へ帰り始めた。

 

「さて、山賊に出会うたのは、この山だったがのう。二十両盗られて、いじめらりゃぁしたが、錆び刀をもろうて、百両で売れた。あの山賊は大恩人だけぇ、わしゃぁあの家へひとつ泊まろう」いうて、その家へいった。山賊と女が出てきて、

「あんたぁ、こないだの人じゃぁなぁか」いうて、たまげた。

「実はなぁ、あん時、二十両わしは盗られたけぇ、仕方なぁ、いちおう帰りゃぁしたが、やれんけぇ、また元の店へ戻った。そこで、奉公をして、また銭をためて法事をしよう思うて、やりかけたんだが、あん時もろうた錆び刀が名刀だちゅうんで、百両で売れた。

 二十両ほだぁわしの銭だが、後ろの八十両ちゅうものはあんたがものだけぇ、あんたに返しちゃろう思うて、あんたへ持って寄った」

 山賊はたまげて、

「あんたは、どこのものなら」いうた。

「わしの親父はこれこれで、わしゃぁ次郎いうものだが、親父のいごずれ(まま母)の子で、親父はもうのうなったが、腹違いの兄ぃに太郎いうものがおって」いうていろいろ話しよったら、山賊が涙をながぁて、

「その太郎ちゅぅのは、実はわしじゃが」いうた。次郎もたまげてしもうて、いうことにゃ、

「親父は、兄ぃはあっけもの(能天気)で、手に負えんやつで、早う旅に出た、ちゅうことを言いいよったが、それがあんただったんか」

「ここで、ひとまず、堅気にならんか。わしが八十両お前に渡すけぇ、わしゃぁ、二十両で、親父や母親の法要をする。ちろうて村へ帰って堅気な生活をしようじゃぁなぁか」

 そいから、兄ぃも心を入れ替えて、村へ帰って、親の法事をしたりして、女とつろうて一生穏やかに暮らした。弟は京へ出て奉公を続けて大きな店の主人(あるじ)になった。

 その店はどがぁたらいう店で、今でも京都にあるちゅう話だ。

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たばこ

 

 昔、たばこには二十四通りぐらいあったらしい。むかしゃぁの、キセルで吸いよったからの。このごろは巻きたばこあるだが、むかしゃぁその、巻きたばこはないから、みなこうキセルでなにしよった。たばこが二十四通りもあるだけぇ、キセルも二十四本かえなきゃぁいけんだぁ。ほいだけぇ、もう吸うだけで、くたびれたらしいんだな。

 「やれ、やれ、今日は、ようたばこを吸うて、くたびれたけぇ」いうて、また、一服吸うた、ちゅう話を聞いとる。

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面白い話

 

 面白い話だちゅやぁ、昔、じいさんがおって、馬を一匹かいよった。だが、馬も、歳とって、ように、しっぽが白うなった。じいさんも歳とって、歯がないようになって、『尾も白い歯無し』になったちゅうようなことだが。

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雉になった娘

 

 とんとん昔、あるところに、娘さんとおばあさんがおった。なんともきれいな娘で、誰が見ても、うっとりするほどであった。あるとき、うわさを聞いた殿様が村へきて、娘におうて、一目で気に入り、

「ぜひとも、わしの奥方にしたい」というた。

 おばあさんは喜んですぐに、承知して、嫁入りの支度を始めた。

 ところが、隣の国の殿様も、娘のうわさを聞いて、村へやってきた。

「なるほど、きれいな娘だ。なんとしても、わしの奥方にしたい」いうて、家来達に、たくさんの金、銀、織物を運ばせて、

「娘をわしにくれ、そうすれば、お前さんも城に連れて行って、たくさんの召使をつけてやる」

 おばあさんは、また、喜んで殿様のいうことを承知した。まぁ、しかし、よく考えればどっちかの殿様を選ばなくてはならん。欲張りばあさんは、ほとほと困った。そのうち、両方の殿様から使いが来て、一日も早く、娘を連れてくるようにという催促がきた。

 

 ある日、我慢の出来なくなった両方の殿様が、おばあさんのうちへやってきて、

「娘はわしがもらうことになっとる。先に約束したのはわしのほうだ」

「いいや、わしの城に来てくれる約束をした。そのための金も渡してある」

 二人の殿様も家来達もにらみ合いを始め、今にも刀を抜きそうになった。

「えらいことになったぞ」

 すっかりあわてたおばあさんは、娘を土間の隅に隠して、上からむしろをかぶせた。

「まぁまぁ、待ってください。娘は今、町へ買い物に行っておりますもんで」

「そんなら、娘が戻ってくるまで待って、どっちがもらうか決めよう」

「よし、わしを選ぶか、お前を選ぶか、娘に決めさせよう」

 二人の殿様も家来達もにらみ合ったまま、娘が帰ってくるのを待った。ところが、いつまでたっても、娘は戻ってこない。そのうち、土間の隅のむしろが、ゴソゴソ動き出した。

「むしろが一人で動くとはどういうことだ。まさか娘をそこに隠しておるわけではあるまいな」

「とんでもない、これは、朝、山で捕まえた雉をくるんであるんでございます」

 おばあさんが、そういって、急いでむしろを押さえると、その拍子に、むしろの中から本当の雉が飛び出してきた。娘はどこにもおらん。娘が雉になって、飛んでいったもんで、おばあさんは、蒼くなって、雉のあとを追いかけていった。すると、雉になった娘は

「お母さんが欲を出すから、罰(ばち)があたって、こんな姿にされた」と泣きながら山のほうへ飛んでいった。

 二人の殿様もびっくりするやら、腹が立つやらで、

「この欲張りの罰当たりめ」といって、帰っていった。

 

 雉になった娘は、神様から

「三万年と三千年の間、よいことをしたら、人に戻してやる」といわれ、今でも地震や雷の来るときは

「気をつけよう、ケンケン。気をつけよう、ケンケン」と鳴いて飛び回るそうだ。

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