|
昔な、嫁さんがおって、そりゃぁとても屁たれ屁たれ、屁をようこくんで
「まぁ、わりゃぁな、嫁さんに行くだが、あんまり屁をこくなよ」いうて、よう言うて聞かした。
「はい、はい」いうて行きよっただが、それが、屁がひりとうて、屁がひりとうて、それで色が青い顔になって、おしゅうとさんが、えっと心配して、
「まぁ、来た時分にゃ色のええ子だったに、えらい色があおう(青く)なったが、だいたいどこかわりいのか。一ついうてみい」
「わたしゃぁ、どっこもわりいこたぁ、ありません。だが、屁がひりたぁです」
「そがぁに、屁がひりたぁくらいなことたぁ、遠慮せんこうに、ひってごせ」いうて、そのおしゅうとさんが言うた。
「そんなら、ひります」
やっ、ひるとも、ひるとも、おばあさんを吹き飛ばぁての、屁をすりゃぁ、おばあさんがぽうんと飛ぶ。そいから、今度、尻をすぼめりゃぁ、おばあさんがまた、さっとひっつく。屁をひりゃぁ、またぽうんと飛ぶ。
「こがぁに屁をたれちゃぁ、お前、これにおっちゃぁもらわれんけぇ。お前、いんでくれ(帰ってくれ)」いうて、またおしゅうとさんが言うた。そいからまぁ
「はいはい」いうて、いによったところが、
ある峠の上に、大きな梨の木があって、梨がいっぱいなっとるその木のねとで(根元で)、
「わたしゃ、こりゃぁ、戻された」いうて泣ぁて、座っとたら、そこへまた旅の人が来て、
「あんたぁ、なんで、泣いとるのか」いうて聞いたら、
「いや、わたしゃぁなぁ、あんまり屁をごっつうこくだで、それで戻された」いうて、泣きよった。それから
「どがぁに、その屁をこくか」いうて、また聞いたところが、
「はい、ここへ梨があがぁにいっぱいなっとるだが、わたしが屁であの梨ゃぁ、みなほろけます(落としてしまいます)」
「まぁ、それなら、一つ、ひってみい」いうたら、そいたら、けつう空へ向いて、梨の木い向いて、屁をこいたら(ひったら)、その梨がみなほろけた。そいでその旅の人が大変感心して
「あんたぁ大変な屁ひりの名人で、そりゃぁ、殿さんへひとつ言うてでて、その何してみい、そうすりゃぁ、ほうびがもらわれるけぇ」
そいから、その人がな、殿さんの所い行って、何やら言うた。そいでその嫁は、殿さんの前でへをひることになって、その嫁のいうことにゃぁ、
「まぁ、殿さん、あなたぁ屁で飛ばするこたぁ、わたしゃぁ、わきゃぁなぁ(訳なく)できますが、殿さんを屁で飛ばしちゃ、大変申し訳なぁで、わたしゃぁ、ひかえとりますが、一つあなたの家来を飛ばさしてごせ(させてください)」
「そんなら、わしゅぅ家来でも何でも飛ばしてみぃ」
そしたら家来さんをみな屁で飛ばしてしもうた。そいで
「こりゃぁ、屁ひり名人だ」いうてな、大変なほうびゅぅ(褒美を)もろうて帰ったそうな。
(目次へ戻る)
昔々、正直なじいさんがおって、じいさんは毎日毎日、山へ木こりに行って、まちで薪を売ってくらしとった。あるとき、お殿さんが、お通りになって
「わしの山で木を伐るのは、どいつじゃ」
「どいつじゃぁない。日本一の屁ひりじじい」ちゅうてな、
「そんなら、降りてきて、屁をひってみぃ」
「ここではいど(尻)にすいばり(とげ)がたってひられません」
「それなら板の上でひってみぃ」
「板の間はつめたくてひられません」
「それなら畳の上でひってみぃ」
「畳はつるつるしてすべってひられません」
「それならいったい何の上でひればいい」
「もうせんの上ならひられましょう」
そこで毛氈の上で
「天にガラガラ、地にビョンビョン、畑に、はったいこ(米や麦を炒り、轢いて粉にしたもの)、竹やぶに、蛇の角一本、あいのさかずき、スッパイポーン」いうて、屁をひった。それを言い、言い屁をひった。(いやそれがな、『天にガラガラ』いうのは雷さんのこと。『地にビョンビョン』は、地震のこと。『畑に、はったい子』いうのは霜のこと、そいから、『竹やぶに、蛇の角一本』いうのは竹の子のことだがの)
あんまり見事にまげな(立派な)屁をひったもんで、お殿さんから、ほうびをいっぱいもろうた。
それを聞いた隣の欲張りじいさんが、
「わしもほうびをたくさん貰わんことにゃぁ」というて、お殿さんがきんさる(いらっしゃる)のを待って、山へきこりに行った。やっぱりお殿さんの行列が通って、
「わしの山で木を伐るのは、どいつじゃ」
「どいつじゃぁない。日本一の屁たれじじい」ちゅうてな、
「そんなら、降りてきて、屁をひってみぃ」
「ここではいど(尻)にすいばり(とげ)がたってひられません」
「それなら板の上でひってみぃ」
「板の間はつめたくてひられません」
「それなら畳の上でひってみぃ」
「畳はつるつるしてすべってひられません」
「それならいったい何の上でひればいい」
「もうせんの上ならひられましょう」
そこで毛氈の上で
「天にガラガラ、地にビョンビョン、畑に、はったいこ、竹やぶに、蛇の角一本、あいのさかずき、スッパイポーン」いうて、屁をひった。それを言い、言い屁をひった。
ところがあんまり、いきずった(力んだ、力を入れた)もんで、くさい屁ばかりポンポカでた。ほしたら、お殿さんがおこってなぁ、欲張りじいさんは、けつ切られて死んだげな。そこが茅の原だったで、いまでも茅の根が赤いそうな。
まぁ、欲張りしちゃぁいけんで。
(編集者注:『白金ぞろぞろ、黒金ぞろぞろ、あい(あや、ごよ)の杯一杯、すっぱいぽん』とか『黄金ざらざら、錦ざらざら、金の杯、五葉の松原、すっぽろぽんのぽん』というのもあります)
(目次へ戻る)
昔、あるところに百姓の夫婦と子供が一人おったんだが、母さんのぶんが、はよう死んだもんで、後家さんをもろうた。
その後家入りが子供を生んだもんで、腹違いの弟ができた。兄弟はとても仲がよかったんだが、ままははのぶんが、兄ぃのぶんにはあんまり食べさせんで、自分が生んだ弟のぶんには、かわいがって
「お前、食べ、お前、食べ」いうていつも食べさせた。兄ぃには、
「遊びに行け、遊びに行け」いうて言うて、
その留守にいつも、弟のぶんには、餅やおはぎやお寿司やいろいろおいしいものを、食べさせて、兄ぃには食べさせんようにする。
ところが兄弟は仲がいいもんだから、弟のほうが、兄ぃが遊びに行っとるときに、途中まで迎えに行って、
「こんなぁ、兄さんや、今日はのう、うちじゃぁ、寿司をこさえてもろうたじゃがの、わしゃぁ、えっと食った。
おかあさんが『あがぁにせんこに、みんな食べ食べ』いいよったんだが、『この寿司ぁ、角がたって食べにくいけぇ』いうて、食わんこに、あんたに持ってきちゃったけん、まぁ、食え」いうた。
「そいだが、まだ残してあるけぇ、あんたがいんだら、くんくんいうてみぃや、犬のようにくんくんかいだ格好をせぇ、寿司くさい、寿司くさいいうてみぃや。お母さんがだぁて(出して)くわするけぇの。あんたにも」いうた。
兄ぃのぶんが帰って、くんくん犬のような格好でかぎまわると、まま母のぶんが
「何をおまや、あがするんか、おかしい子じゃやの。くんくんいわんでもええじゃなぁか」いうた。
「今日はどうもちょっと、へいぜいとは違うがのう。どうもちょっとその寿司のにおいがしてならんのじゃが」ちゅうて言うた。
そしたところが、お母さんのぶんがいうことにゃ、
「ああ、そうそう。今日はどこそこでなぁ、お寿司をもろうたがな。少し残してあるけぇ、お前も食べ」いうてから、その兄ぃのぶんにも食べさした。
そのあくる日にも、兄ぃのぶんを遊びにいかした留守に、弟のぶんに
「今日、おはぎをこしらえちゃるけぇのう」いうて、おはぎをたくさんこしらえて、
「えっと食べ、えっと食べ」いうて食べさした。弟はえっとよばれたが、
「ちぃと、熱い」いうて、幾分か残した。
兄ぃが遊びから帰る途中、待ち伏せて、その残した餅を持っていって、食べさせた。
「今日はおはぎをお母さんがこしらえたけんの。いんで、犬のようにくんくんやれよ。そいから『今日は、おはぎ臭い』て、言えや」ちゅうていうた。
兄ぃのぶんは帰ると、くんくん犬のような格好でかぎまわった。
するとお母さんが
「今日はどがするんだ、お前。昨日もやっただが、今日はどがしたんだ」いうた。
「今日はどうも、へいぜい(いつも、普段)とは違うでなぁ」
「どがぁ、違うか」
「今日は、どうも、わしゃぁ、あの、おはぎの臭いがしてやれんで。わしゃ、おはぎを食べたいだが、どうもおはぎの匂いがする」というた。そうしたところが、お母さんが
「おうおう、そうそう、今日はどこどこでの見舞いにおはぎを貰ったけぇ、幾分残してあるけぇ、あんたも食べえぇや」いうて兄ぃにも食わした。そういうことが、続いた。
そしたところが、お殿さんのうちに(家で)大切な、ほうぶつ(宝物)の巻物がなくなった。
「この巻物は、昔から伝わった巻物だけぇ、替えがない。この巻物のありかを、だれか知って(教えて)くれりゃぁ、そのものにゃぁ、褒美をやるけぇ」ちゅう、お触れをだした。
そのまま母がいうことにゃ、
「こんなぁ、どうかいなぁ、うちの息子ぁ、いかなるものでも、鼻嗅ぎをして、ものをかずりだす(嗅ぎだす)ことがじょうずだけぇ、この息子にかずりださせちゃったら、どがぁなか」と申し出た。
「そりゃぁ、そういうものがおるなら、とにかく、呼び出してくれ。そのものに、鼻でかがして、巻物のありかを、調べさせるけぇ」いうことになった。
ところが困ったのは兄ぃで、これまでは弟が、いろいろ知恵を貸してくれて、うちの息子は、鼻かぎが上手だ、ちゅうことになったんだが、今度は弟が、知恵を貸してくれん。
「まあ、お殿さんの命令だけぇ、仕方がなぁけぇ」いうて、うちをでることになった。弟のぶんも
「今までは、わしが知恵で、あれが鼻が上手だったんだが、本当によう鼻がかぐんじゃあなぁ。ようかずみださんようだったら、戻しちゃもらわれんだろうけぇ」いうて、
別れの盃もして、その兄ぃになるぶんの息子は、お殿さんのうちへ行った。
ところがお殿さんのいわれることにゃぁ
「なんでも、これにゃ、大切な巻物がなうなったんだが、お前はなかなか鼻かぎが上手なそうなが、鼻をかいで、そのもののありかをかいだしてくれ。わからしてくれ。
わかって、そのものが本当にみつかった場合にゃぁ、おまえには、大変な褒美をくだしちゃるけぇ」いうた。
ところが兄ぃのいうことにゃ
「いや、いさいよく、承知つかまつりましたから、これから鼻をかがしてみますけぇ。まず、そいじゃぁこの、やぐらの高いのをこしらえて、その上に座敷ぃ一つこしらえてくれ」いうた。
「わしゃぁ、寝さしてもらう」言うて、兄ぃはその座敷で寝た。
毎日毎日、それに寝とって、くんくん犬の格好をして、かずんでおった。まぁ、かずみ出してくれる人だいうことで、丁重な扱いを受けて、朝にも昼にも晩にも、大変なご馳走をしてよばれた。お殿さんの家来の人が、日ごとに、
「多少わかりますかいな。多少わかりますかいな」伺いをした。
「まだわからん。どうも、わからんよの。だいしょう、ちったぁ、かぎはするが、どうもようわからん」いうことをさいさい繰り返した。
「どうもわからんけぇ、もうちっと、やぐらぁ高うしてくれんか。もうちっと高うしてくれりゃぁ、がわの(あたりの)いろいろのわずらわしを逃れるでのぅ」そいで、
「そんならそがぁしましょう」いうて、また家来がやぐらをたこうする。
そいで、毎日鼻かぎをやってもどうしてもわからん。どがぁしてもわからん。
「仕方なぁ。このままこがぁしとってもやれんだろうけぇ」と思うて、晩になって、こっそり
「とても、ようかいださんけぇ、自分の家へ帰りたいだが、帰る思うてもやれんけぇ、まぁ、どこぞへ逃げよう」思うて逃げた。『けつまり(けつまくり・仕事を放り出すこと)』いうてもええんだが、とにかく逃げた。
山道を逃げて峠へさしかかったところが、そこにお地蔵さんのほこらがあった。そのお地蔵さんのまえに小豆ごはんが十杯ほど供えてあった。
日が暮れて、腹も細うなって、まぁ、仕方がなぁけぇ、思うて、その小豆ごはんを一杯よばれた。そいで、小豆ご飯は九杯残った。そいから、兄ぃはお地蔵さんのほこらの下へ入って
「まぁ、こがなところで、今晩泊まらしてもらわにゃ、どがぁにもならん。まぁ、どっち行くいうても日がくれとる。空は真っ暗だけぇ、仕方がない」いうて、そこへもぐった。
「これまでには、まぁ、弟のおかげで、わしゃぁ、鼻が効くちゅうことで、いろいろなええめぐみ(恵)におうたんだが、こんどはどうも、しょうがない。お殿さんのうちを、けつまって(仕事を放り出して)逃げたのだけぇ、仕置きにあうことはしょうがない。まぁ、おる間ほどは、大変なご馳走を呼ばれて、幸せだったが、まぁ、もうしょうがない」と思うて、お地蔵さんのほこらの下に隠れて、寝ておった。
ところが、夜中になって、あっちこっちから狐がコーンコンコンコンコンいうて、お地蔵さんの前へ集まってきよった。狐は十匹きたんだが、狐は小豆ご飯が大好きだけぇ、初めに来たぶんから一杯ずつ、小豆ご飯を食べた。
そうしたところが、最後に来たぶんは、めん(雌)狐だったんだが、そのきつねのぶんがなくなった。そりゃぁ、兄ぃが小豆ご飯を先に一杯、食べてしもうただけぇのう。
そのめんぎつねに向かって、先に食べよった狐どもがいうことにゃ、
「お前も、きやぁしたが、小豆ご飯は、お前のぶんはないで。お前は、こなぁだ(この前)、なんじゃぁなぁかえ、あの、どこどこのお殿様の巻物を取ってきて、川のぞばの柳の下で、あれをつこうて、巣ぅ作って、お前、子を生んだじゃなぁかえ。
そいでその、罰が当たっだで、お前のぶんがないのよのぅ。小豆ご飯はなぁけぇ、お前、こらえにゃぁ(我慢しなければ)やれん」いうた。
ほこらの下で隠れていた兄ぃのぶんが
「こりゃぁ、大変にいいことを聞いた」いうて、夜が明けてから、また、お城のほうへ、そろり、そろり、帰っていった。
ところがお城では
「鼻かぎの息子がおらんようになった」いうて、大騒ぎをしよった。
「四方八方尋ねよったが、あんたどこへ行きんさったか。どこへ行きんさったか」いうた。
その息子はそりゃぁ、逃げたともいわれんだで、
「ちょっとわしも用事があってなぁ、用がすんだで、そいから戻った」ちゅうて、
「まぁ、だいしょう(少しは)わかりますかいなぁ」
「ちったぁ臭いがするような感じがするんで、わしゃ、ちょっとその方へさぐりに出てみたんだが」いうた。
そいで、またやぐらの上に上がって、
「いよいよこんなぁ、ちっとわかりますがな。いや、こりゃぁ、まぁ、どこどこの川のそばに柳の木があるはずだが、そこの木の下にあるじゃなぁか思うけぇ、ひとつ使いを出してみんさい」
ほうしたところが、そりゃぁ、まぁ大変いいこと教えてくれたちゅうんで、家来を行かせたところが、その川のそばに柳の木があって、その柳の木の根元に、狐が巻物をつこうて巣を作って、子を産んだ跡があった。
「巻物が、こがぁなところにあった」いうて、まぁ、それを持って帰って、お殿さんのもとに納めた。
お殿さんは、巻物が戻ったんで、たいそう喜んで、息子に一生食べてもあまるぐらいな米やら褒美をたくさんやったそうで、息子はそれを大八車に乗せて、自分の親のうちへかえって一生幸せに暮らしたちゅうような話をわたしゃぁ聞いとるだがのう。これぽっちり。
(目次へ戻る)