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昔の話なんだが、あるところに、お母さんと子供の二人がくらしておった。子供がおばあさんのところへ使いに行った。
おばあさんのところへ行ったら、ちょうどお昼前になったし、
「まぁよう来てくれた」いうんで、おばあさんが団子汁をしてくれた。
そがぁして、ゆるい(いろり)に鍋をかけて、団子汁を作って、くたくたと煮とった。そうする合間に、おばあさんが
「そうず(水車小屋)で米をつきよるけぇ、そりょを取りに行ってくるけぇ、おまえは、ここで火の番をして見とってくれぇ」いうた。
子供はおばあさんがいってくるまで、火をたいて番をしとったわけだ。『そうず』いやぁ、米をつく水車小屋のことだがの。そのうち、ま、子供にゃ、とてもたまらんええにおいがしてきたわけよ。
おばあさんが戻るまでに、ちょっと食べちゃろう思うて、杓子で団子をすくうて、あっつい奴う、こう吹いて、いつ戻るだろうか気にしながら吹いとった。
そこへ、戸口でおばあさんの気配がしたもんで、あっつい奴う、口に入れた。口へ入れてもいっぺんに食べらりゃぁせんし、おばあさんに食べるところを見せとうないもんで、上へのって(背筋を伸ばして)、こう涙を流しながら、家の上の様子をこういかにも見とったような風をして、あばあさんに食べよるのを、悟られまいとして、しきりと上を見とる。おばあさんが話をしかけても返事も出来ん。
そうしとるうちに、どうやらのどを越すようになったんで、
「おばあさん、この垂木(たるき)はどういう垂木か」いうて言うたら、おばあさんが
「そりゃあ、涙垂木いうもんだ」言うた。
そりゃぁおばあさんは子供が食べよるのを知っとるけぇ、涙垂木だ言うた。
「うまかったか」
「うまかった」
「そいじゃぁまぁ、腹いっぱい食べよう」
「こりゃぁ、どがぁいうものか」言うて、子供が聞いた。
「こりゃぁ、団子汁いうもんだ」
夕方になって帰るときに、もういっぺんおばあさんに
「ありゃぁ、どがぁいう汁だったかいのう」いうて言うたら、
「ありゃぁ、団子汁いうだ。われ(お前)忘れちゃぁつまらん(残念だ、情けない)で」
「ああ、忘れん、忘れん」
「そいだけぇ、いぬる途中ずうっとそりょを言うていねぇや」
「うん、あがぁしよう」ちゅうて。
そいからいぬる途中ずうっと
「だんご、だんご、だんご、だんご」言うてやりよっただぁな。
そがぁしたところが、子供のことだもんで、歩いて帰りよる長い道中、ほかのものにも気が散ったりする。
それがたまたま途中、谷川を渡らにゃぁならん。谷川を渡るときに、昔は橋がなあだけぇの。飛び石だいうてな、川の中に、じかに入らんでもええように、石がすえてあったんだ。
そこへきたときに、子供だもんで、そのときに、
「ぴっとこな」言うて飛んだ。それが、こう二つ三つ、
「ぴっとこな、ぴっとこな、ぴっとこな」いうて飛んだ。
ま、道々、それを言うて帰れいうんだけえ「ぴっとこな、ぴっとこな」言うて帰った。
そんで、いんでも「ぴっとこな」だ言やぁわかる思うて、お母さんに、
「『ぴっとこな』いう物を作ってくれ」言うた。
お母さんは「なにが『ぴっとこな』かいのう」思うて
「おい、『ぴっとこな』いうものは何か。どがぁしたもんか」
「おばあさんところで『ぴっとこな』を作ってくれた。お母さん作ってくれ。うまかった。とてもうまかったけえ、お母さんもやって食べようや」
さぁ、そがぁしたところが『ぴっとこな』いうもんが、何やら、どがぁなもんか全然わからん。日が暮れてくるし、お母さんが
「はよう言え。はよう言わにゃぁ『ぴっとこな』もでけんじゃなぁか」
そいだが思い出そう思うても、思い出せんし、今度は、お母さんが、かんしゃくを起いて、げんこつをやったげな。
「わからんことを言う」いうてごちんとやる。そがぁしたら、頭にこぶができた。
「これによう似たもんだ」そいで
「これによう似たもんだ、いうて、なんならこぶか」
「こぶじゃあない。汁へ入れるもんだ」
「おお、そりゃぁ、だんごかい」
「おう、そうだ、だんごだ、だんごだ」いうことんなって、団子汁を作って食うたちゅう話だ。
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昔々、あるところにうさぎとかめがおったげな。うさぎはいつも足が長いけえ、遠くへ駆けって行くで、自慢してかめに向いて
「かめさん、かめさん、お前はとっても足がとろい(遅い)けぇ、なんであがぁにとろいのか」いうて言うた。そしたらかめが腹こいて
「うさぎさん、そがぁに自慢するなら駆け比べをしよう」
「そりゃぁ、それもよかろう」
向こうの山へどっちが先行くか、いう話になって、うさぎとかめがいっぺんに出たげな。
かめはよちりよちりして早よう行きゃええせんし、うさぎは跳んでいくけぇ
「ま、どうせかめはゆっくりしか、よう来んから、この辺でひとつ休んじゃろう」
休んだら、ついつい陽気なもんだけぇ、眠ってしもうて、そいからしばらくして、ひょっと目を覚まして、
「だいぶ、寝たもんで、日がだいぶ西傾いとる」
うさぎが先行って、昼寝しよったもんだけぇ、そのうちにかめが先なって行って
「おお、あがぁに行ってしもうて、わしゃ、こりゃぁ、ように負けるかもしらんで」思うて急いでいってみたら、はぁ、かめは山のつじ(頂上)へ上がっとって、そいから、うさぎが行ったら、
「うさぎさん、うさぎさん、なにしとったんじゃ。」いうて笑われた。
「おまえ、なんと早う来たのう」
「早ういうても、日がくれるでなあ、もうちょっとすりゃぁ」
じゃけぇ、あんまり、なんでもかんでも人たぁ知っとる、人たぁ上手じゃ思うとっても、ゆだんすりゃぁ負けると。ぽっちり。
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あるところに、うさぎとかめがおって、
「ほんなぁ、餅をつこうじゃなぁか」と話がまとまって、
「はて、そりゃぁええことだが、どこでつこうか」
しごにならん(ずるがしこい)うさぎは
「ほんだら、あんな、向こうの、あの山のつじ(頂上)でつこうじゃなぁか」ちゅうて
「そりゃよかろう。わしゃどこでもええわ」と亀がいうもんだけぇ、むこうの山の上へ上がって、餅をぺったんこ、ぺったんこついた。
「もう、ええ餅になったけぇ、ほんなぁ、もまにゃいけんが、もろ蓋[1]持って来とらんけぇ、もめんけぇ、あの、おきのえご(谷・くぼ地)で、ももうじゃなぁか」
「ほんなら、そがぁしよう」とかめがいうた。
うさぎは、しごにならんけぇ、ようし、しめたと思うて、餅を中にいれたまんま、うすをおきの谷にまくった(ころがした)。
うさぎは、どうせわしがはやぁけぇ、独り占めができると思うて、臼と一緒に飛んでおりて、ふもとんなって、臼が止まって、ほいから食っちゃろう思うて、臼ん中のぞいたら、なんにもはいっとらん。
「こりゃぁ、どがぁしたかいの」
それから、山のつじまでもどりよったが、どうもない。臼がまくれるとるあいだに、中の餅はみんな途中でほろけて(こぼれ落ちて)しもうた。
亀はのっそら、のっそら、山から下がって、途中まで来たところが、あっちこっちに餅がころがっとるけぇ、
「あ、こりゃぁ、ええ、こりゃぁ、うまい」
餅を食べちゃぁ、降り、食べちゃぁ、降りし、とうとう、亀はみんな餅を一人で食うてしもうて、
「うまい世の中だのう」いうた。
うさぎは山を下がったり、上がったりして、餅には一つもありつかなかったちゅうて。
ほで、まぁ、やっぱり、あんまり独り占めしようと思うたけ、ばちがあたった。物事は、自分にだけ、ええことしよう思うてもいけん(だめだ)ちゅうことだな。ぽっちり。
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昔、今頃とはちごうて、大変便利の悪い時代で、京都の本願寺参りいうと相当な日がかかっての。この辺から片道百五十里ぐらいはあるという話だ。
そのころに、まあ田舎から、若者が京都参りをして、あちこち見て歩くうちに、古物屋で立ち止まり、見るとたくさんな古道具が並べてある。その中には、琴、三味線などもある。それに札がつけてあって、その札には
『こと、しゃみせん』と書いてある。
若者はこれを見て、
『ことしゃ、みせん(今年ゃ見せん)』いう風に読んだんだなぁ。
『ことしゃ、みせん』というても、みてやる、とうろうろしていたところが、ふとみると、額縁の中に人間の姿がある。
よく見ると自分の顔によく似ておる。いつも近所の人は
『お前は親父にようにとる』といわれるもんだから、死んだ親父が、こんなところにおると思い、顔をつけるようにしてみていると、店屋の親父が、
「売り物だから、あたらないようにしてください」という。
「よし、売り物なら俺が買う(こう)」というて、大事にして、こうて戻って、内緒で、あまだ(屋根裏)の箱の中にいれて隠した。
時々、あまだに上がって見ちゃぁ、その親父さんの顔を見よる。
「なんでもおかしいが」思うて女房がそろっと行って、
「見ちゃろう。どがぁなものを隠いとるだろう」思うて、そいから覗いてみりゃぁ、なんと、ええ女房が顔だいとる。
「ああこれで、あれがいつもいつも、わしに隠れて会いに行く」いうので大変、腹立てて、
それから夫婦喧嘩になった。
お寺の尼さんちゅうのがなんでもかんでも大変物知りだけぇ、問題が起こりゃ、ま、そこへ行って、頼んだり、仲裁してもろうたりした。そこで、女房が
「まぁ、お寺さん、あちらへ行って見ちゃりんさい」
「いや、わしゃ、そがぁな、なんじゃぁない」と男がいうだから、
「お前、女を隠しとるちゅう話だけぇ、ほんなら、わしが行ってみちゃる」言うて。
尼さんが行ってみりゃぁ、女はええ尼さんになっとる。
「あんたらは、あんまり夫婦喧嘩するけぇ、あまだの女は、ほうらわしが見りゃぁ、ように懺悔して頭を丸めて尼さんなっとるけぇ、あんたら喧嘩するな」
それで三人で一度に見て、鏡であったことがわかったというような話だ。それ、ぽっちり。
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まぁ、ある家にちょっと足らんむすこがおった。八文銭ならまぁ、八文銭よりちょっと前一文ぐらい少ないような男がおった。お父さんが死んで、馬鹿な息子が、後を継いでお母さんと暮らしとった。
「今日はなぁ、おとっつあんの命日だけぇ、お寺さんを迎えに行って来い」いうての、
馬鹿な息子を迎えに行かした。
「お寺さんはの、上へ黒いものを着て、下にゃぁ白いものを着とられるけぇの」
「はい」ちゅうて、迎えにいったんだが、行きよったら、つばくろ(燕)がとまっとった。
「ごしょう(和尚)さん、ごしょうさん、今日、おとっつあんの命日だけ、法事に行っちゃんさい(きちゃんさい、来てください)」いうて、いうだぁな。
そうすが(そうすると)つばくろが
「極楽んじゃ、餅(もち)ゅぅ食った。こっちんじゃぁ、つちゅう(土を)食った。くっちゃぁ(口が)苦い」ちゅぅて言うた。
そりゃぁ、こっちじゃぁ土を食っちゃぁ巣ぅこしらえるけぇなぁ。つばくろが。
そいから、つばくろに逃げられてまたどんどん行きよったら、カラスがおった。
「ごしょうさん、ごしょうさん、、今日、おとっつあんの命日だけぇ、法事にまいっちゃんさい」いうて言うた。
「コカア、コカア」(子かぁ、子かぁ)。
「子じゃございません。子じゃございません。おとっつぁんで」
そいから、カラスに逃げられて、いんだ(帰った)。
「お寺さん、どげやった」
「『コカア、コカア』言ったけ、『子じゃありません。おとっつぁんです』」言うたら逃げた。
「まぁ、われはバカタレだ。つまらんげな。あら、カラスじゃなぁか」
「そいじゃぁ、ま一遍、いってこい」
そいから行って、こんだぁ、よその駄屋(だや、家畜小屋)に、黒い山羊がおっただけぇ、
「ごしょうさん、ごしょうさん、うちにゃぁ、おとっつあんの命日だけぇ、まいっちゃんさい」
「めえぇ、めえぇ」
「めん(雌)じゃあありません。おん(牡)だります。親父だけぇ」いうて言うた。
「どうぞ、きちゃんさい」またいうたら、またしても「めえぇ、めえぇ」いうけぇ
「めんじゃぁなぁ、おんだ」いうて、腹こいた(腹を立てた)。
そいで、こんどいんで(帰って)、また、そがぁいうたら
「そりゃぁ、われ、ごしょうさんじゃぁなぁ。山羊だけぇ。あがぁなことを言うちゃぁ、つまらん」
お母さんは腹こいて、
「今度、わしが迎えにいってくるけぇ。おまえは、お初穂(主として神様へ供える新米)炊きよるけぇ、番をしとれ」
それからお母さんがお寺さんを迎えに行ってもどった。
「めしは煮えたかい」
「煮えよったらブツブツブツブツ言いよるけぇ『ブツブツじゃない。法事だ』言うたら、何ぼ言うてもブツブツ言うけぇ、ふたぁ取って、はえ(灰)をぶちこんじゃった」
「まぁ、つまらんやっちゃ。そりゃぁ、めしにならんじゃなぁか」
お母さんは、
「よし、そんならどぶなどだして、お寺さんにご馳走しょ」言うて、あまだへあがった。
昔はあまだ(屋根裏)で、内緒で、どぶろくを作りよった。というなぁ、はんど(かめ)を、あまだの藁ん中へいれときゃぁ、暖こうて、どぶろくがようわくし、隠しとるにも都合がええで、あまだでどぶろくをようつくりよった。
「どぶおろすけぇ、このはんどのケツをようとらまえておけよ、ええか」
「ああ、よしよし」
そいから、上から縄ではんどをゆわえて、降ろしよった。そいからええかげんなとこで、
「はぁ、手がとうた(届いた)かや」
「ああ、とうた、とうた」
「そんならケツをしっかりもっとれよ。ええか」
「ああ、よしよし」
「ええか」「よし」で、はんど落としたら、はんどが下に落ちてめげて(壊れて)しもうた。
「なして、お前、ケツかかえちょらだ」
馬鹿息子は、はんどの尻をかかえんこに、自分の尻を一生懸命、かかえとった。上でゆるいて(ゆるめて)しまうだけぇ、はんどは下へ落ちてめげた。どぶろくはこぼれて、飲まりゃぁせん。
お寺さんに何のご馳走もないけえ、風呂ないとわかして入ってもらおうというて、風呂を沸かした。
お寺さんが入っておったところが、馬鹿息子が
「炊くものがない」というた。
「なんず、そこらにあるものを炊けや」
そいでお寺さんの着物やら袈裟やら、みんな下着まで全部炊いてわかした。お寺さんが風呂から出て、着物を着よう思やぁ、着るものがない。しかたぁないけぇ、蕗の葉を前にあてごうて、裸で法事もせんで、走っていにんさった(お帰りになった)。
馬鹿に会うちゃ、どうもこうも、手がない、いう話だ。それ、ぽっちり。
(編集者注:あまだから降ろすのは、茶壷が多い。和尚さんを迎えに行く途中で出合うのは、乳牛もある)
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