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昔、お侍さんが、山道を通りかかったところが、狼がでてきたで、それが、二匹おるで、やれんけぇ、木ぃ登った。狼が木の下から一匹だけじゃ、たわんけぇ(届かないので)、もう一匹つろうてきて(つれてきて)、一匹がびんびくま(肩車)をしたが、まだたわんけぇ、
「山の神のばあさんを呼べぇ、あれなら、ちょろちょろ、ちょろちょろ、下から木ぃ登るけえ。呼べ」
山の神のばあさんちゅうのが猫だで、猫は木によう登るだけぇ、猫がおおかた侍に、たえそうに(届きそうに)なった時に、侍が上から刀を投げたけぇ、猫にあたった。猫も狼も逃げた。怪我をした猫を、つけていってみたら、一軒の家へ入った。
「これへ今、戻ったものがおるか」いうて言うたら、嫁が
「おばあさんが今戻って、寝とられるが」
「そのばあさんを見してくれ」
「おばあさん、起きんさい、起きんさい」いうて、布団はぐってみたら、布団の中に寝とったのが、猫だったいうてな。猫がそこのばあさんを食ってしもうて、猫がばあさんに化けていたんだな。
猫はかなわんけぇ、また逃げて山へ上がった。その跡をつけていったら、その山の奥に岩穴があった。そいでみると中にゃぁ、人間の骨がえっとあった。猫がとって食った人間の骨がえっとあった。侍さんが、猫を退治して、猫がおらんようになってから、その村のものは楽にくらせるようになったんだげな。
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昔な、木こりが山行って、足をのべて(延ばして)、おちゅうはん(昼飯)食べよった。そしたらなあ、蜘蛛が一匹ぞろぞろっと来て、足にえぎ(くもの糸)をひっかけた。
「まぁ、この蜘蛛、おかしいのう。わしが足い、蜘蛛の巣をかけはじめたで」
初めは、片側へつきよったげなが、じねんに(自然に、だんだんと)両方の足い、えぎをひっかけよる。そしちゃぁ、ずうっと沖ぃ降りる。
そいからまた、ぞろぞろっと来ちゃぁ、この足ぃ、この蜘蛛のえぎを引いちゃ、またずうっと、谷ぃ落ちる。木こりがじりぃっと見よったが不思議でならん。それで、こりゃこりゃ思うて、そこに大きな木のかくい(きりかぶ)があったんで、そのかくいへ、今度、その蜘蛛の巣を、わが足から、ひょいっとひいっつけた。
そりゃぁのう、蜘蛛はそんなこたぁ知らんけぇ、また、かくいへえぎをつけちゃぁ、沖いずうっと降りる。そしたら、そのかくいを、きれえに、えぎでずうっと包んだそうだ。
そして、いっぱい包んだときにな、沖のほうから
「よいしょう」ちゅう声がした。
すると蜘蛛の巣の網で、このかくいをくるうっとひっくらかいて、沖ぃまくらかいた(ころがした)。
そいで、その男が、たまげて、
「やれ、やれ、わしが蜘蛛に、取られるだった。そいだが、かくいだったけぇ、かくいがまくれたけぇ、わしゃぁ、助かった」いうて、家へ飛んで帰ったそうだ。
まぁ、あったことか、なぁか、わしゃぁ知らんでなあ。
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昔、ある町に小さな飴屋があったそうだ。毎晩、夜ふけてから、白い着物を着た、青白い顔をした女が水あめを一文ずつ買いに来た。ある晩、飴やが女のあとをつけてみると、女は十王堂[1](じゅうおうどう)の裏の墓場へ入って、すうっと消えた。飴屋はおそろしゅうなって家へとんで帰った。
七日目の夜、女は金を持たずに来て、しきりに手招きするので、飴屋は恐る恐る女のあとを追って、墓場までくると、女の姿がすうっと消えた。ある墓の耳竹(花を供える竹筒)の中から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。あわてて、墓を掘り返してみると、飴を買いに来た女が死骸で横たわり、そのそばで、生まれたての赤子が、にこにこと笑っておる。
この母親は、死んで埋められた後で、墓の中で、子供を生み、幽霊となって、三途の川の渡し賃としてもらった六文銭を使って、水あめを買いに来たんだが、金がみてたので(なくなったので)、飴屋を迎えにいったんだなぁ。赤子は飴家が育てたそうだ。
人は死んでからでもお金は必要だということだな。
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昔は、六部[2]さんちゅう人が、おって、家を一軒一軒回っとった。で、あるうちへいったところが、そこに小さい子供がたっとった。
「この子は、水難の相がある」いうて、六部さんがいうた。
そいで、そこの家はびっくりして、そいからおよそ水には気をつけておったそうだ。特に水遊びしたときや何かには気をつけておった。そしたところが、ある日のこと、ふすまに『水』いう字が書いてあったんだが、その『水』という字にすがって、その子が死んどったという話だ。
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越中富山の薬売りが、山ん中で道に迷うてのう。ちょうど家が一軒あったんで、
「道に迷うて、やれんけぇ、今晩泊まらしてください」
「まぁ、そりゃぁ、難儀な(つらい)ことよのう。きしゃなげな(汚い)とこじゃあるが、とまっちゃんさい」いうた。
夜中に、薬売りが目を覚ましたところが、隣の部屋で、じいさんとばあさんがなあ、相談しよる。
「ま、お客さんに、なんのごっつおを(ご馳走を)すりゃぁ、ええだろうがな」
「手打ちにするだろうか、半殺しにするだろうか、皆殺しにするだろうか」
「こなじいさんばあさんは、わしが銭を持っとうの、知っとるけぇ、手打ちにするか、半殺しにするか、皆殺しにするか、いうとる。こりゃぁ、おらりゃぁせん」いうて薬売りは逃げた。
うんだが、昔、そばのことを、手打ちそばいうての、そばを、手打ち手打ちいいよった。半殺しいうなぁ、おはぎ。ご飯つぶがまだ残っとるようなのもあるし、つぶれたところもあるし、それで半分殺しとるで、半殺しいうた。皆殺しいうなぁ、餅のこと。ご飯つぶが全部つぶれとるで、餅を皆殺しいうとった。
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地獄にも極楽にもおんなじご馳走があって、おんなじように、ながぁい箸と柄のながぁいさじが、あるんだそうだ。そいだが地獄の人は、食べようと思うても、食べよう思うても、よう食べん。極楽のものは、みんなよう食べる。その後馳走をな。
どうしてかいうとな、極楽へ行く人はええ人だけぇ、そいでごちそうを、自分が食べようと思わんで、相手の人に、食べさすんじゃ。そうすると、向こうの人は、こっちに食べさす。こうして食べさせやいこをして、みんな食べれる。
地獄へ行くような人は、わしが、わしが、思うけぇな。何でもわしが、ちゅうて思うけぇ、さじも柄が長うて、ご馳走が食べられん。箸も長うて、食べられん。極楽へ行く人は、人を食べさすけぇ、自分も食べれる。地獄へ行く人は、自分だけ食べようとするけぇ、自分がよう食べられん。
というような話を聞いたのを覚えとるけぇ。
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昔な、欲な欲な男がおってな。なるべく出すことは出さんように、取るものは取るようにやりおった。精だぁて(精を出して)、精だぁて、銭ためとった。嫁さんは、はたらぁて(働いて)くれても、くわする(食べさせる)ものが惜しいちゅうだけぇ、それでまぁそんなだけぇ、なかなか嫁さんのきて(来る人)がなかった。あるとき、女が訪ねてきて、
「これにゃぁ、女房がおらんいうことですが、ひとつ、これに、女房にしちゃぁ、もらわれまぁか」いうた。
「そりゃぁのぅ、飯食わん女房がほしいんだが」と男が言うた。
「わしは、何年たっても飯は食べはしません。おいちゃんさい」
「そりゃぁまぁ、そういうことんなりゃぁ、来てもらいましょう」ということで、嫁さんに来てもろうた。
ところが、なかなか、じっさいに働きもする。それからご飯も食べん。男は外で働く、男に弁当をこさえたりなんだりしてやるんだが、嫁さんのほうは、朝になっても、昼になっても、晩になっても食べんので、
「こんながぁ、だいしょう(少しは)飯食わにゃぁ、やれんだろうが、飯ちっとは、食え」いうた、ところが
「いや飯は食べません。わしは、飯は食いとうありません」
なんたって、飯を食わん。そがぁは、いうても、人間たるものがな、飯を食べん、何も食べずに、生きとるちゅうことは、ひとつどがぁぞ、おかしいところがある。どうも不思議でこたえん(しようがない)。
それから、こりゃぁ出たふりをして、そうっと見ちゃるぐらいはよかろうと思うて、
「今日、どこそこへ行くけぇ」いうて、弁当持って、出たふりゅぅして、家のあまだ(屋根裏)へそろうっと上がった。
「どがぁず、なんぞ食いよらせんか」思うて、そろぅっと隠れて見よった。
そうすりゃぁ、何のこたぁない、おやっさんが外へでるとすぐに、庭へ大きな釜をこしらえて(すえつけて)、それへ米一斗入れて、ご飯を炊き始めた。ご飯が焚くなかいに、隣に、もう一つ釜をこしらえて、隣のばあさんを引っ張って戻って、そのばあさんをひっつかまえて、その釜に入れて煮た。焚いた一斗の飯を、大けなおむすびにして焼いて、飯は食わんいうとったかかあが、おむすびを食う食う。隣の釜で煮とったばあさんを、引き裂いちゃぁ、それをさかなにして、おむすびを食べる。それも頭の上に、髪に隠れて、もう一つ口があって、その口で食べよる。
そいでな、あまだへおった男は恐ろしゅうて、恐ろしゅうて、とてもやれんようになって、たった今、外から戻ったような格好で戻ってきて、あくる朝になって、
「わしはまぁ、ちいっと、今度ぁ、旅で、長仕事をうけおうたけぇ、旅に出るけぇ。お前いんでごせ(帰ってくれ)」いうて言うた。
「そりゃぁ、いにましょう」いうて女が言うた。
そいからその女が出ただが、後をつけて行った。そうして行ったらな、大けな洞穴(ほらあな)ん中へそれが入った。中で声が聞こえる。
大けな蜘蛛がおって、仲間と話をしとった。
「あの男をな、地獄いな、落としちゃろ、男を殺しちゃろ思うとるが、あしたの晩あの男を取って、取り殺しちゃる」いうて言うた。
男は、そろっと、うちへ戻って、近所の人を頼んで、
「こいべ(今夜)、蜘蛛がやってくるけぇ、みんなつりょうて、退治してくれい」いうた。
夜になって、くど(いろり)へ、ええ火を焚いて、みんなぐるうと座っとったら、天井から、自在鉤をはって、ぞろぞろぞろぞろ、蜘蛛が降りてきた。みんな箒を持っとって、そのくもを、火の中へ叩き落して、退治したそうだ。
晩のくもは人を取るけぇ、みりゃぁすぐ殺さにゃぁいけん。あさま(朝)にさがる蜘蛛は、吉相だけぇ殺さんでもええと。くもが固まったようにして降りてきた時分にゃぁ、よそから物を持ってくる。くもが脚を広げて来る分にゃぁ、何かもらいい来るんだそうだ。
そいから蜘蛛の口は頭の天こうについとる、いうてきいとるがの。
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嫁さんはえらかったが、婿さんは、ちっとぼんやりしとってのう。今度婿さんが、嫁さんのところへ、呼んでもらういうので、嫁さんが、
「さき行って、まっちょる」つう、婿さんが
「さぁ、どがぁして、その、訪ねてったがよかろうか」ちゅう。
あがぁ、こがぁの道をおせえても(教えても)まあちょっとぼんやりしとるで、足らんで、どがぁしたがよかろうかということを評定して(話し合って)、すくも(もみがら)を持って、それをずっと道にまぁて(まいて)、そいから、それを道しるべに、ずっとたずねて行ったらよかろうちゅうことになって。嫁さんはすくもを、ずうっと道にまぁてきよったと。
婿さんが、まぁ、嫁さんのところへ、すくもをたよりながら、どんどん行きよっただが、ところが途中で、風が吹いたもんで、すくもが、道端のつつみ(堤、ため池)の中へ、流れてしもうた。
さぁ、婿さんも困った。嫁さんとこへいきたぁし(行きたいし)、これをたずねて行かにゃぁ、嫁さんのところへいかれんけぇ思うて、堤ん中へはいった。
嫁さんのうちじゃぁ、婿さんが来るのをみんなまっちょる。婿さんがなかなかこんけぇ、なんでもどういうしこう(様子)だろうかということで、嫁さんのほうから、人を出ぁてみりゃぁ、なんと堤の中であぶあぶしとる。まぁ、なんとか助けて、嫁さんのうちへつろうて(連れて)行った。
嫁さんのうちへ行って、お茶をだぁたがの、こんどはこれが熱うて、熱うて飲まれんけぇ、
「こりゃ、熱うて飲まれん」いうたら、嫁さんが
「そがぁに熱けりゃ、こうこ(たくあん)一切れ入れんさい。こうこを一切れ入れて、まぜて飲みゃぁ、つべとうなって(冷たくなって)飲まれる」いうた。
そいで、熱いものはこうこ入れりゃええ思うたんだな。こうこ入れりゃぁ、さめるけぇ。そいから、風呂を焚いたんだが、婿さんだけ思うて、一番風呂へ入ってくれいうた。そしたところがの、一番風呂へ入ったはええが、熱うて入れんだげな。嫁じょうが来たけぇ、
「こりゃ、熱い熱い。早うこうこを出ぁたんさい。こがぁ熱いけぇ入れん。早ぅこうこを持ってこい」ちゅうて、言うたそうだ。
あるとき、婿さんの親父が
「こりゃぁ、ぼんやりしておるけぇ、言うて聞かさにゃやれんけぇ」思うとったが、火事を見て
「家が焼けたときにゃ、水をかけるのを、皆手伝うだ」いうて言うておったが、婿さんは鍛冶屋行って、燃えとる炭に、水をかけたいうやな。それで、ポッチリ。
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