目次

 

古屋の漏り犬の脚蛇の婿入り狐の恩返し

 

古屋の漏り

 

 昔、あまんじゃくだか、なんだか悪い奴が、家に入ったら、年寄りが話しよる(している)のに、

「わしゃぁ、世の中に、いびせえ(恐ろしい)ものは何もなぁが、もりんどが一番いびせえ」いうて、言うたもんだから、自分よりももっとこわい、もりんどいうものがおると思うて、逃げたそうだ。

 もりんどいやあ、家がボロになって、雨漏りがするだろう。その雨漏りのことだけぇの。

(目次へ戻る

 

 

犬の脚

 

 ありゃぁ、あのう、昔、五徳にゃぁ、脚が四本あった、いうてな。

 そいで、そのぅ、犬には、昔は、脚は三本しかなかったそうだが、そいで、三本じゃぁ、いろいろ都合が悪いんで、弘法大師さんが、五徳の脚を一本、犬にの、やりんなさった。

 犬は喜んで、弘法さんからもろうた分の脚には、しっこをかけちゃぁ、もったいないけぇ、必ず、片足を上げてしっこをするんだそうだ。

目次へ戻る

 

 

蛇の婿入り

 

 昔、庄屋さんの娘のところへ、ええ男が、雨の降る夜も、風の夜も、通いつめんさってな。それで、あの、ことわりきれずに一夜(ひとよ)の情(なさけ)にほだされたげな。

 そうするとな、日に日に、この、腹が大きうなってくるで、隠しおおされんけぇ、ある日両親には話したそうだ。男はなかなかええ男で、ええ男だが、しんから冷たいいうてな。

 

 親が言うことにゃ、

「そんなら今度、男が来たら、黒い木綿糸をいっぱい巻いといて、その糸を針に通して、その針を、男の髷(まげ)に刺せ、そうすると、その糸をたどっていくと、男がどこへ帰っていくのかわかるけぇ」というた。

 娘は、今度、その男が来たときに、言われたとおりにした。男が帰ったあとで、娘は、大きな卵を産み落とした。家のものはなぁ、嘆き悲しんだ。そういうても、しょうがないけぇ、糸をたどっていったらな、蛇淵(じゃぶち)いうて、今もあるがな、そこへ行ってみたら、なんだなぁ、大きな蛇がな、腹がやって(ひっくりかえって)死んどったそうだ。

 蛇の頭にゃぁ針がささとったそうだ。

(目次へ戻る

 

 

狐の恩返し

 

 このじいさんは、元は本百姓であったよな。

このじいさんの家は、元は自作農であったんだが、一番上のおおごの娘が肺病になった。おばあさんが、看病にあたったんだが、ふたりともなくなった。

 つぎのおおごの息子が肺病になって、その次のこが肺病になった。おばさんも肺病になって、結局みな死んでしもうた。最後に、男の子が一人とじいさんが残った。

 

 そこでこの家におったんじゃ縁起がわりいと思うて、ほんで、その家から離れて、山のへりのほうに掘っ立て小屋作った。そこで暮らしとったんだが、そのじいさんは人に親切で、なんにたいしても感謝の心を忘れん人だった。

 じいさんは、なんとかして、一人残った息子に嫁をもろうてやろうと思うていたんだが、なかなか嫁がない。貧乏するし、来てくれるものはおらんじゃろうと思うたが、墓参りをして、ご先祖にたのんだ。

 「何とかして嫁をもろうてやってください」とたのんだ。

 

 ある日、今までつきおうたことのない人がひょっこりやってきて

「あのなぁ、これの息子じょう、ええ子だけえ、嫁を世話しょうと思うが」というた。

「さぁ、きてくれりゃぁ、ええがのう」と息子に話したところが、

「そりゃぁ、だめだ。わしゃぁ、もらう気がなぁ」

「これえきたところが、また肺病になって死んだら気の毒だけぇ」というようなことを言うた。

 その仲人になるものが

「まぁ、あがぁいわんこう、娘を見よう」言うて、聴聞があって、寺へ連れて行った。

 人が帰ってから、仲人が、何とか話をさしょうとおもうて、息子を娘にあわした。

 ところが、息子が言うたちゅうんだ。

「わしに、そのぅ、嫁に来るな。嫁に来てもつまらん。うちは貧乏なけぇ」

「あんたが、うちに来て肺病になっても、つまらんけぇ、あんた、来んほうがええ。そいで、あんたの親の許しも受けずに、あんたに会うたのは、あんたの親に対してたいへん申し訳ないけぇ、そいで、あんた、家へ帰ったらな、よろうしゅう言うてくれ」言うてもどった。

 

 その娘が、家へいんで(帰って)そのまま言うた。言うたら親がたまげた。

「ここには、そがな、実直なものはおらんけぇ。まぁ、とにかく、娘をやって、肺病になるならんは、そりゃ、ともかくのことで、人間というものは、いつ芽が出るかわからん」

「いま貧乏でも、先でそのまた、金持ちになるだやら、このこたぁ、わからんことだけぇ。まぁ、とにかく、この息子にほれたけぇ、お前行け」

 それですぐ二三日のうちに、祝言をあげた。

 

 それから、まぁずっと、皆、つろうて一生懸命働いとった。その娘もなかなかできのええ娘で、よく働くし、じいさんには親孝行した。

 小作として生活をたてておったところが、なかなか生活が苦しいので、じいさんは、いつも山へ炭焼きにいきよった。炭焼きい行くのに、普通の弁当持っていったんじゃぁやれん(どうしようもない)のだ。毎日、勘定してな、米を勘定して食わにゃ、やれんのだけぇ。それで、弁当として米一合、手ぬぐいの中へ入れて、しばりあげて、腰にぶら下げて、山へいきよった。

 

 その山で、昼前まで山へ上がって、仕事をして、それから降りてかゆを炊く。かゆを炊くいうてもなあ、一時間ぐらい煮にゃぁ、かゆにゃぁならんのだけぇなぁ。かゆう、あんまり、強い火にせずに、ほどよい火にして、ぐつぐつぐつぐつ、煮えるように炊かにゃぁいけんのだぁな。

 かゆだけじゃぁ足らんから、周りに生えとるせりとかよもぎとか、いうようなものをいれて、それにちょんぼり塩を入れて、かゆにしてすする。煮えるまでには一時間くらいかかるから、その間、炭を包んだり、仕事をしながら、一時間ぐらいたって、炭小屋に戻って見ると、ちょうどほどよく煮えておる。

 

 そこで、その一合のかゆを、どんぶり茶碗に、二杯にわけて、そいで、冷やさにゃ食われんけぇ。

 そいで、冷やしよったところが、そこに一匹のう、狐がやってきたんだ。そいで狐を見るというと、銀色の狐なんだ。見たこともなぁような。そいでその狐は腹が太いんだ、身重だったんだ。

 

 そこでその狐が、じいさんに、両手をついて、頭を下げて、くんくん言うたいうんだ。

「はぁはぁ、わりゃぁ、それでは、これが食いたいのか」言うたら、また頭を下げてくんくんいうた。

「ああ、そうかい。そうかい。わけてやるけぇのう」いうて、一杯のほうを狐にやったら、狐はすぐ食おうとはせん。「われ、くええや」いうたところが、そんでも食おうとはせん。

「はぁはぁ、そうかい、それでは、わしが先に食やぁ、わりゃぁ食うのか」いうたら、また、うなずいて、くんくんいう。

「それなら、くおう」いうて、じいさんが先いすすり始めた。

 そして狐の眼から、ぎょうぎょうの涙が出た。そして、まぁなんだ、まぁ、かゆ腹というてなぁ、腹がふくれるんよな。一時腹でなあ。それで、腹がふくれたもんで、じいさんは横んなってぐうぐう高いびき。

 

 そいでおよそ半時ぐらいたって、目をあけてみたときに、狐もそばに寝とったげな。

「おお、わりゃ寝とったかい。それじゃぁ、わしゃぁのう、ここにおるわけにはいかんけぇ、山へあがって木を切らにゃぁやれんけぇ」いうて、刃物をもって、山へ上がった。上がるに、山の道が急なけぇ、じいさんが、なかなかはよう、ようあがらん。

 そこで、狐が先に立った。そいで、狐がその道から逃げんけぇ、

「そこを、逃げぇ。そこにおっちゃぁ、じゃまんなるけぇ。わしが上がられんじゃぁなぁか」

 そしたら、狐が、なんとか、くんくんいう。

「ああ、そうかい。そうかい。わりゃぁ、わしをひっぱってあがっちゃろういうのかい」いうて、腰にまいとる細引き(細い綱)を狐の首へから肩へかけて、それの端をもったら、狐が引っ張って上がり始めた。

「やれやれ、わりゃぁ、わしをひっぱってくれるけぇ、やれ楽なのう、やれ楽なのう」いうて上へあがったいうんだ。

 

 上へあがって、木を切ろう思うたら狐が今度は、木を切らさんのだ。じいさんのももひき(ズボン)を食わえて、引っ張り始めた。

「わりゃぁ、何をするんだりゃ。そこを離せや、離せや」いうても、離さんのだ。

 そして、今度ずっと、狐につられて、別のところに行って見たところが、みたこともないほどのたくさんの香茸(こうだけ)が生えておったんだ。それが、ずらぁっと、しろになって(ひとかたまりになって)生えとったんだ。

 そいで、その香茸を取って入れるほご(入れ物)がない。それでなぁ、しかたがないから、じいさんは、かづらを切って、かづらの先をとがらして、その香茸の根に、かづらを通してな、輪にしたんよ。なんぼうも、なんぼうもこしらえて、両方の肩にかけた。たすきがけに両方の肩にかけた。

 

 それで元のところへ戻って、香茸を下ろした。そいから木を切り始めた。まあ、日が暮れるまで切ったんじゃやれん。切った木を下へ落として、まくり落として、釜の近くまで、木を動かしておかにゃぁやれん。

 釜のところまで、寄したやつを、すぐに釜に入れて焼くだけぇなぁ。どうしても、切った木はその日のうちに、釜の近くまで寄せておかにゃぁならん。

「やれ、木を切ったけぇ、今から、この木を落とそう」思うても、たくさんの香茸をこいどる(折った、取った)んだけぇ、

「これをどがぁしようか」思うとるうちに、この狐が、じいさんの代わりになって、この木を下へころころころころまくり落としたんだ。

 人間技じゃぁないんだけぇ、人間の三人役ぐらいの速さでなぁ、どんどんどんどん、その木を下へまくり落とした。

「やれ、うれしいのぅ。やれ、うれしいのぅ」いうて、ようやく、じいさんが下へ降りたときには、木がはぁ、釜のへりによっとったんだ。

「やれやれ、わりゃぁ、ええことをしてくれた。すまんのう。すまんのう。われに何ぞやりたいものだ。何ぞやりゃぁええだが」と思うて、ふと向こうを見るというと、たくさんのアケビがなっとった。

「よしよしあれをとってやろう」というてそばへ行ってみると、高いところにあるんだけぇ、細長い木を切って、この木の先になたをくくりつけて、これをもって、たくさんのアケビを取って、

「これをわれにやるけぇのう、食えよ」いうたら、くんくん言うて喜んだ。

「お前がとこ、いなずに(帰らずに)、わしが炭焼き小屋で寝え。そうすりゃぁ、ぬくうもあるし、そいから、夜露もしのがれるけぇのう」いうたら、またくんくんいう。

 

 そいからじいさんは、その香茸を肩へかたいで(かついで)、帰った。途中こまい町中(まちなか)を通らにゃぁならん。

 そこを通り始めたら、

「おっつぁん、その香茸をやんない(ください)や」

「そりゃ、売らんこともない」するとある人が、相当の値段をつけて、これでこう(買う)、いうとるんだ。そうしたら他の人が

「いや、それじゃぁ、それよりももっと高う買う」

 こういうふうなことになって、たちまちに売れてしもうた。

 

 それから、家に帰ってもじいさんは、わが息子より、息子の嫁をかわいがるという人だったんだ。なしてかかわいがるかというと、うちのような貧乏な家へよう来てくれた、嫁はよほどわしを大事にしてくれる。

 息子は、まぁ、かわいがってあたりまえのことだが、その息子より嫁を、よけいかわいがった。それで、一部の銭を自分の小遣いとしてのけて、あとの銭を全部、嫁に与えた。

「今日は、こうこうでの、銭、えっともうけたけぇ、これをわれにみなやるけぇのう」言うた。

 

 それから、その晩になぁ、寝たところが、そのじいさん、夢を見たんだ。夢のなかにその狐が出て、

「おじいさん、今日は、あんたのかゆをいただかしてもらいました。ありがとうございました。おじいさんのおくさんは、昔、死んだが、さしむき、あんたのおくさんの身代わりになってでて、ここで舞をもうたげましょう」いうて、言うた思うと、昔死んだ家内の姿になってな。それが舞をもうてみせたんだ。

「やれ、なつかしいのう。やれ、なつかしいのう」いうて、じいさんが、言うた時に、目がさめた。

「やれやれ、目が覚めたかい」と、思うときに嫁が

「おじいさん、ごはんですよ」いうてな。

「ああ、そうかい」いうて朝飯を食うた。

 

 朝飯を食うんでも、勘定してくわにゃぁやれんなぁ。腹いっぱい飯を食うというわけには、いかんだけぇ。その朝飯も二杯食えば当たり前なんだが、

「まてよ、この一杯は、あの狐にもってってやろう」思うて、一杯ほど食うて、あとの一杯分は、嫁に握り飯にさせて、それを竹の皮につつませて、山にもってったところ、狐がまっとった。

「きのう、もうけさせてくれて、すまだったのう。われに、これやるけぇのう」いうて、その握り飯を与えた。

 ところが狐は、頭を下げて、すぐに食おうとはせんのだ。

「食えや、遠慮するな」いうても、なかなか食わん。

「はぁ、はぁ、そうかい、そうかい、そいじゃぁわしに半分食えいうのかい」いうことで、それを二つに分けて、狐に与えた。

 

 そいから、狐とじいさんがつろうて(一緒に)食うた。それから、山に上がって、木を切ろうとすると、狐がまたひっぱりよる。

 いってみると、今度はなにもないとこ、つれてったんだ。小さな松がてんてんと生えた、あんまり土地の肥とらんところだぁの。

「なんにもなぁし、おかしい(変だ)のう」思うたたところが、狐が、足先で掘りはじめた。

 掘った所をみると、マツタケが出始めた。じいさんはそのマツタケを入れるものがないんだ。もうたくさんのマツタケで、はじめはふところへ入れよった。

 ところがそれが入りきらん。そこでしょうが(仕方が)ないけぇ、上着を脱いで、上着を風呂敷がわりにして、つつんで、持っておりた。上半身は裸だぁの。

 そうして、元のところへ戻って、木をきって、そいから、狐に落としてもろうて、そいから我が家へ戻った。戻るとき、上半身裸けえ、人がたまげた。

「じいさん、何事ならぁ」

「今日のう、マツタケをえっとこいで(取って)のう」

「ああ、そいなら、わけてやんさい」いうことで、そこでまた、マツタケも売れた。

 

 たいへん銭をもうけた。そいで、その銭を、ほんのちょっとわが小遣いを取って、あとは全部嫁に与えた。そしてじいさんは米を買うて、今度は、米やら魚をたくさん持っていって、狐と分けおうて、しばらくの間、一緒にこの炭焼き小屋で暮らした。

 そいから、子を産むときになったんだろうか、この狐が突然おらんようになった。じいさんは、この狐には全然会わなんようになった。

 

 それから、この家はどんどん栄えて、

「どうして銭がもうかるのかわからん」と人が言うぐらい、銭が入ってきた。

 人が田を売る、山を売るいうときに、他のものが、よう買わん。このじいさんが買うて、たちまち、大地主、大金持ちになったそうだ。

 

 だれにでも、親切にせにゃあいけん。何に対しても感謝する気持ちを忘れちゃあいけんのう。

(目次へ戻る