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猿の婿入り蟹の仇討猿の一文銭

 

猿の婿入り

 

 

昔、あるところにじいさんとばあさんと娘が三人、おったそうな。山のひら(斜面)の畑をうちに(耕しに)行っておったら、猿が出てきて、

「じいさん、ばあさん、畑打ちは、しわかろう(つらかろう)、わしが手伝うてあげようか」

「そりゃぁ、手伝うてくれ」

「それにゃぁ、条件がある。おまえんとこの娘を、どれでもええが、一人くれりゃぁ、打ったげる」

「そりゃぁ、やるけぇ、打ってくれ」いうたら、

 猿が、一生懸命コチコチ打って、早う、畑打ち(はたうち)が終わった。

「畑を打ったけぇ、約束どおり、娘を一人もらいに行くけぇのう」と猿が言うて、そいから、じいさんが

「約束だけぇ、そりゃぁ、やろう」いうて言うた。

 

 じいさんとばあさんは家へいんで(帰って)

「やぁ、今日猿に畑を打ってもろうたが、悪いことを約束してしもうた。娘はやりとうなぁだが」思うて、えっと、心配して、じいさんが寝てばかりおった。

 そいから一番上の娘が、

「まぁ、おとっつぁん寝てばっかり。寝てばっかりだがなしてか」いうて言うたら、じいさんが

「実は、今日、これこれで、猿に畑を打ってもろうたが、娘を一人くれえ言うたんで、やる、いうて約束して打ってもろうただが、お前行ってごせ(くれ)んか」いうて、言うた。

 娘の言うことにゃ、

「わしゃぁ、行かん。猿の女房なんかにゃ行かん」

 そいから、中の分も

「わしゃぁ、行かん。猿の女房なんかにゃ行かん」

 

 そいで、どれぞ行ってごせにゃぁ、やれんが、はぁ、だめだろう、思うて一番下の分にも

「お前のぅ、よほどなんだが、猿の嫁に行ってごせんか」いうて、がいに(ひどく)泣ぁて頼んだら、

「そりゃぁ行く、おとっつあんの約束だけぇ、いったぎょぅ(行ってあげよう)」いうて言うた。

「行ってくれりゃぁ、よほどうれしい」いうて、じいさんが言うたところが、娘の言うことにゃ

「それにゃぁ、お願いがいがある」

「何がいるか。ほしいものがありゃぁ、何でもいうてみい」いうたら、

はんど(かめ)を買(こ)うちゃんさい」

「そりゃぁ、みやすい(簡単な)ことだ」いうて、はんどを買うて持たしたら、娘は、猿に

「はんどを負うてくれ」言うて、そいから、猿が横しに(横向きに)負おう思うたら、娘が

「横しじゃぁ危ないけぇ、落ちるけぇ、上へ向けて負うてくれ」いうて、上へ向けて負わしたいうだ。

 

 そいから、猿がいぬる(帰る)。娘がついていく。娘は途中石を拾うて、袂(たもと)へ入れといて、橋の上を通るときに、橋の上からその石を、チャポンと水の中に投げ入れた。

 猿が

「何を落としただら」いうたら

「今、おとっつあんに、買(こ)うてもろうた鏡を落とした。拾うてごせにゃ、ついていかれん」

 そいから猿が

「そりゃぁ、拾うちゃろう」いうて、橋の下へ降りて

「ここか」

「いんにゃ、まちっと先」

「この位か」

「もちっと先」

 そいから、そがぁいううちに猿は一足一足先ぃ、行ったら、深ぁところへ行って、

「そこ、そこ、その辺だ」いうて、娘が言うたもんで、

 そいから、猿が拾おう思うて、かがんだら、はんどへ水が入って、猿は溺れて死んだいうだ。

 

 そいで娘が橋の上で喜んでおったら、そこへ若いええ男が通りかかって、何をよろこんどるか聞いたもんで、

「こうこうこれこれで、喜ろこんどる」言うた。

 男は、なかなか心がけのええ娘だ、思うて娘を嫁にした。親の言うことを聞いたもんで、娘は幸せなことに巡りおうた。

 昔から、親のいうことは聞いたほうがええということだ。それぽっちり。

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蟹の仇討

 

 昔々、あるところに、猿と蟹がおったげな。

 かにがおむすびを拾って、猿は柿の種を拾ったそうだ。猿はおむすびがほしゅぅてならんけぇ、

「かにさん、かにさん、取替えっこしょぅじゃぁなぁか」ちゅぅわけで、柿の種はかににやって、おむすびをかにからとりあげて、食うてしもうた。

 そいから、かには柿の種を植えて、毎日毎日水をかけちゃぁ、

「はよう芽をだせ柿の種」ちゅぅていいよった。

 それで芽がでたら、

「早よう木になれ、柿の種、木にならにゃぁ、はさみでちょんぎるぞ」

 

 そうしたら、だんだん大きぅなって、でこうなって、まげな(うまそうな)柿がいっぱいなった。

 そしたところが、猿が来て、

「かにさん、かにさん、まげな柿がいっぱいなっとるじゃぁなぁか。ひとつ食おうじゃぁなぁか」

 まぁそうはいうても蟹はゆっくりしかよう歩かんし、木はよう登らんだが、猿はするっと柿の木へ登って、赤いええ柿をとって食う。蟹は下から見て、うらやましゅうて、それでも自分はようとられんけぇ、

「猿さん、猿さん、柿を多少、わしにくれぇや」

「はい」ちゅうて堅うて渋いやつをポンと落としてやる。猿はやっぱしうまいやつを食うてなぁ。

「こりゃぁ、堅うて渋うて食わりゃせんけぇ、もうちょっと柔(やわ)いやつう、投げてくれ」

 それから、ちいと柔いやつうポンと落としてやって、

「これもまた、渋いけぇ、もっとええやつ」

「そがぁに、文句ばっかり言うなら、上がって取ってみぃ」

「とてもよう上がらんけぇ、どがぁでもくれぇ」

 

 そやって、問答しよったら、猿が腹こいて、柿を投げてきた。堅い柿が甲へ当たったもんだけぇ、甲がしょげて、死んでしもうたそうだ。(母蟹の)腹ん中に子がにがおったあんばいで、それが、親がつぶされて死んだその日のうちに生まれて、泣きよったら、

 臼と栗と蜂とべこのくそが遊んでおったのが、ちろうて通りかかった。

 子がにが泣くので

「なして泣くか」いうたら、

「猿がうちのおかあの背(せ)なへ柿をぶっつけたもんじゃけぇ、死んでしもうて、ように淋しゅうてやれん」ちゅうていうたところが

「そりゃぁ、憎いやつじゃ」

「なら、わしらが、仇(かたき)を取っちゃろう」いうて、臼と栗と蜂とべこのくそが相談しおうて、こがにを連れて、猿がおるところをようやく捜し当てて、猿に

「ひとつ、家へ来い。ごっつおう(ごちそうを)しちゃるけぇ」猿が行くと

「ここへ、栗がくべてあるけぇ、栗が焼けるのを待っとれ」いうた。猿は喜んで、一生懸命焼けるのを待ちよった。そしたら、栗がパーンとはじけて、猿の顔へ飛んでいっただけぇ、ようにたまげて、

「やれ熱い」いうてはんど(かめ)行って水をつけよう思うて、そがぁしたら、蜂が目を刺(さ)ぁて、たまげてな、外へ出よう思うて、戸口のほうへ飛んで行ったら、べこのくそで滑って、その猿の上へ、戸口の上で待っとった臼が、上からドタンとおりて、猿を押さえつけて、猿がどたどたする間に、子蟹がきてな

「仇をとるじゃ」

「まぁ、こらえてくれぇ」猿がいうたんだが、蟹にはさみで首を切られて死んだいうてね。

 

 それだけぇ、悪いことをしちゃぁいけんで、仲ようせにゃぁいけんで、ちゅうことだよの。ぽっちり。

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猿の一文銭

 

 昔、まぁ、あるところたいそう栄えたうちがあったそうな。そのうちのじいさんは、たいへんな分限者(ぶげんしゃ)で、おうようで、人のええ人だった。

 川の向こうにもう一軒うちがあっての、そのうちは身上(しんしょう)があんまりようのうて、そのうちのじいさんは悪知恵のはたらく人だった。分限者のほうは、たくさん使用人を使(つこ)うて、牛や馬がたくさんおって、犬や猫やにわとりもたくさんおった。分限者のうちには昔から猿の一文銭という宝物があって、その宝物があるんだで、だんだん身上がようなったそうだ。

 

 ところが、ある日、身上のよいほうのうちで、親類に不幸があったもんで、そいだで、家族そろっていくことにした。

「わしゃぁ、親類の不幸に立ち会わにゃぁならんで、みんな、いくけえ、あんたぁ、えらいすまんが、うちの留守番をしちゃぁくれんさらんか」というて、川向(かわむかい)のじいさんに頼んだ。

「そりゃぁ、やったげましょう」

 じいさんは、留守番をしとるあいだに、

「ここのうちにゃぁ、猿の一文銭いう宝物があるそうだが、これを持っていぬりゃぁ、うちも分限者になろう」思うて、かみて(上座敷、かみざしき、客間)の天井裏に下げてあった猿の一文銭を、懐へ入れた。そのうちのじいさんがかえるのを待って、

「そいでは、さいなら」いうて、知らん顔をして、自分のうちにもどった。

 

 猿の一文銭が隣の家へ移ったもんで、それからは、身上のよくなかったほうがだんだん身上がよくなり、身上のよかった分限者のほうはだんだん身上がわるうなった。

「長(なご)うおってもろうたんだが、まぁしょうがない(仕様がない、しかたがない)。貧乏になったけぇ、養うことができん。まぁ、これまでの縁だ、思うて、別れてくれぇ」いうて、たくさんの使用人にひまをだした。牛や馬や犬や猫やにわとりも、全部放(はな)してしもうた。

 

 ところが、家を出るときに、猫が犬にいうことにゃ、

「わしらがこれへ来たのは、わしが代じゃぁなぁ。わしが親の代からここへきて、養(やしの)うてもろうて、ここで生まれて、ここで大きうしてもろうた。今は、離れにゃぁ、やれんようになっただが、これもじいさんのうちが貧乏になったで、しょうがないだけぇの。

 本当いやぁ、このうちが貧乏になったのは、あの宝物の猿の一文銭が、なうなっただけぇ。

 こないだ、隣のじいさんが、留守番するときに、持って帰ったんだけぇ。それで、あこは、だんだん身上がようなった。下男もたくさんおる。女中もたくさんおる。馬や牛や犬や猫やにわとりもたくさんおるようになった」

「わしらが長年養うてもろうた恩返しに、まぁ、どがぁかして(なんとかして)、ここへ戻って、またここで養うてもらえるように、一つ何しようじゃぁなぁか。

 どがぁずして、あこの、かみでの天井裏にさがっとる、あの猿の一文銭を取り返してやろうじゃぁなぁか」

「そりゃぁ、そりゃぁ、ええ考えだ。そりゃぁ、みな、そがぁしょう」

「それにゃぁ、わしに、ええ考えがある」と犬が言うた。

「あんたぁ、あこのうちへ行っての、戸口で、にゃんにゃん、言うてみぃや。そいやぁ、お前は猫だけぇ、猫ならねずみをよう捕(とら)まえるけぇ、戸口を開けよう。戸口を開けたら、お前ちょろっと入れや」

「入ったら、ねずみを捕(とら)まえて、ねずみに、天井から猿の一文銭をぶらさげてある細引き(麻糸で作った細い綱)を食いちぎらせぇ。

 お前は下で、口を開けて待っとりゃぁ落ちてくるけぇ、くわえて、戸口い出りゃぁ、わしがお前を連れて逃げちゃるけぇ」言うた。

「そりゃぁ、ええ考えだ。そりゃぁ、そがぁしよう」と猫が言うた。

 

 猫は泳げんけぇ、犬の背中に乗せてもろうて、川を渡った。

 猫が戸口でにゃんにゃん言うと、そのうちのじいさんがいうことにゃ、

「まあ近頃はねずみがたいそう多(おお)うなって、わるさをしてやれん。米を食うたり、戸をかじるようになったけぇ、猫を入れてねずみを捕(と)らしてやれ」言うて戸口を開けた。

 猫は戸口から中へ、ちょろっと入って、はしごを登って、あまだ(屋根裏)へ上がって、ねずみをくわえた。

 ねずみをくわえて、猫が言うことにゃ

「あこに、あのものが、猿の一文銭がさがっとるが、ありょをひとつ、一文銭をぶら下げてある細引きを、根元から、お前切ってくれんか。そうすりゃぁ、わしが下で口を開けとるけぇ、わしの口の中へ落ちて、わしがくわえるけぇ」と言うた。

 ところが、ねずみの言うことにゃ

「いや、いや、わしゃぁ、そがぁなことはしゃぁせん。あんたぁ、これまでわしの親も兄弟も、わしの子もみんな食い殺して、あんたがえさにしとる。

 そいだけぇ、かたきのあんたに、そがぁしちゃろう、ちゅうような恩は、なあんだけぇ。そういうことは、ようせん」

「そりゃぁ、今まで、わしがやったことは悪かった。今からはあんたが子供やら兄弟だきゃぁ、かみつきゃぁせんけぇのう。

 とにかく一生のお願いだけぇ、そがぁしちゃぁくれんか」と言うた。

 そこでねずみが言うことにゃ

「まぁ、そういうことなら、そがぁしちゃろう」いうて、ねずみが猿の一文銭をぶらさげてある細引きをくいちぎった。下で猫が落ちてきた一文銭を口にくわえて、戸口から外に出た。外では犬がまっとるので、つろうて(連ろうて、一緒に)逃げた。

 

 それから、犬の背中に乗って川を渡ることになったが、川を渡るときに犬が言うことにゃ、

「大切な宝物だから、落としちゃぁいけんぞ。落としちゃぁいけんぞ」

 川の真ん中のほうの一番深いところになってから、また犬が言うことにゃ

「大切な宝物だから、落としちゃぁいけんぞ。落としちゃぁいけんぞ」

 落とすな、落とすなというて、犬があんまり言うもんだで、猫が腹こいて、ねじ声で(うなるような声で)

「やかましい、落としゃぁせん」いうて言うた。

 大きな口を開けたけぇ、不調法に(情けないことに)、一文銭が川の底へ落ちた。

「やぁ、しもうた。猿の一文銭を川の底へ落とした」言うたところが、犬の言うことにゃ

「見ぃや。そのことをわしが憂(うれ)えて、言うたんだにのう」

 

「こりゃぁ、なんとか拾わにゃぁ、ことにならんのだが。まてまて、わしゃぁ、とんびをつかまえよう。とんびに、わしの言うことを聞かせよう」と犬が言うた。

 とんびを捕(とら)まえて犬が言うことにゃ

「実は、あこに、川の底に、猿の一文銭を落といたんだが、お前、あれを拾うてくれんか」と言うた。

 とんびの言うことにゃ

「わしゃぁ、あんたの言うことにゃぁ従わにゃぁ、ならんのだが、わしゃぁ、空を飛ぶ鳥だけぇ、とても川の中の仕事は、ようせん。わしを逃がしてくれるんなら、わしが鵜の鳥をつかまえたげよう。鵜の鳥は川におるもんだけぇ、あれなら拾うてくれるだろう」と言うた。

 そこで犬はとんびを放した。

 

 とんびが鵜の鳥を捕まえて言うことにゃ

「あこに、川の底に、猿の一文銭がおちとるだが、あれをお前、拾うてくれんか」そこで、鵜の鳥がいうことにゃ

「そりゃぁ、わしゃぁ川におるんだけぇ、川の上のことはやっちゃるが、川の底のことは、わしにゃぁ、ようできん。わしを逃がしてくれるんなら、わしが鮎をつかまえたげよう。鮎は川の底におるもんだけぇ、あれなら拾(ひろ)うてくれるだろう」と言うた。

 そこでとんびは鵜の鳥を放した。

 

 鵜の鳥はすぐに川へもぐって鮎を捕まえていうことにゃ

「あこに、川の底に、猿の一文銭が落ちとる。あれを拾うてくれんか」と言うた。

 鮎が言うことにゃ

「あんたはいつもわしらの仲間を捕(とら)まえちゃぁ、あんたは食べてしまう。わしが親や兄弟親戚みんな、あんたがやりよったんだけぇ、あんたに義理立てするようなことは、ようできん」と言うた。

 鵜の鳥がいうことにゃ

「そりゃぁ、今まで、わしのやったことは、悪かった。これからぁ、あんたの子供や兄弟だきゃぁ、捕りゃぁせん。わしの言うことを聞いてくれ」と言うた。

 鮎が言うことにゃ

「これからは、取ってくれん(取らない)、ということなら、このたびはあんたの言うことをきいちゃろう」と言うた。

 

 鮎は川の底から猿の一文銭を拾うて、鵜の鳥に渡した。鵜の鳥はそれをとんびに渡した。とんびはそれを犬に渡した。犬はそれを猫に渡して、猫は口にくわえた。犬は猫に

「今度はしっかりくわえとれよ。落とさんようにせぇよ」いうて、猫を背中に乗せて、川を渡った。

 そして、猿の一文銭を元のうちのかみて(客間)の天井裏へ戻した。それからは、人のええじいさんのうちはだんだん身上がようなり、人のようないじいさんのうちはだんだん身上がわるうなった。

 

 それで、このごろ、この辺の民謡で

『空飛ぶとんびに、ねこねずみ

 川じゃ鵜の鳥、鮎のうお』

というのがあんだが、この歌の文句に、犬の名前がはいっとらん。

 犬のいうことにゃ

「わしも、猿の一文銭を取り返して、ここのうちの身上を盛り返すのに、力を尽くしたんだが、歌の文句に猫はでるが、わしの名前が入っとらん」と言うて腹を立てた。

 

 このごろは、犬は、腹が立つけえ、猫をいじめる。猫を見りゃぁ、すぐ追いかける、ということになっとるんだなあ。

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