じいさんが毎日毎日山へ薪を採りに行きよった。そのじいさんは心がけのええじさんだったんだが、ある時にのう、
「ひっつこうか、もっつこうか」いうて山がうなった。あんまりうるさいんで、
「ひっつかば、ひっつけ。もっつかば、もっつけ」ちゅぅて、腹こいて怒鳴ったところが、
ほいたところが、どこからともなく、体中へむかごがいっぱい寄ってきて、むかごがたくさんひっついたんで、どがぁもなりゃぁせん。むかごがひっつく、またひっつく。むかごだらけになったそうな。そいからそのまま、はあ、仕方なぁ、自分の家帰って、
「ばあさんや、こんなぁ、山行ったらな、『ひっつこうか、もっつこうか』いうたで、『ひっつかば、ひっつけ。もっつかば、もっつけ』いうたけぇ、そうしたらこがぁに、よけ(たくさん)むかごがひっついたことよのう」
「あ、そりゃ、ま、ええじゃぁなぁか。つろうて取ろう」いうて、むしったら、たくさんのむかごが取れて、
「こんだぁ、むかご飯にしようじゃぁなぁか」いうて、むかごご飯をした。
「こりゃ、わしらが食うたばっかしじゃ、やれんけぇ、隣のじいさんやばあさん呼ぼうや」いうて。
そしたら、となりのじいさんやばあさんは悪いじいさんばあさんなんだが、ま、ちろうて、えっとよばれて帰ったところが、となりばあさんのいうことにゃ、
「お前も、行ってみないや。お前も山へ行って『ひっつけば、ひっつけ。もっつけば、もっつけ』いやぁ、むかごがいっぱいくっつくで、つろうてむかご飯を炊こう」
「そりゃぁ、ええ、そがぁしよう」いうて、隣のじいさんが、さっそく山へ飛んでいった。そしたら、どこからとなく
「ひっつこうか、もっつこうか」いうて山がうなった。
「ああ、これだな、ようしようし」と思うて、そのじいさんが
「ひっつかば、ひっつけ、もっつかば、もっつけ」いうて、出来るだけ大きい声で叫んだ。
ところが今度は体にひっついたのが杉やね(やに)やら、松やねやらばっかりで、どがあもこがあもなりゃあせん。おじいさんが
「うんうん」うなっていると、六部さんが通りかかって
「おじいさんどこぞ具合がわるいんか」というたら、
「具合どころじゃぁなぁ。わしの体をみなせぇ。杉やねやら松やねだらけで、手も足も動かされんじゃぁなぁか」
「これはこれは難儀なことよの。この杉やねやら松やねをとるにはの、じいさんや、家へ帰って、大火を焚いて、あぶってみんさい」
そこで、やっとのことで家へ戻って大火を焚いて、あぶったんだが、そしたら、おじいさんの体の杉やねやら松やねに火が付いて、おじいさんはとうとう焼けしんでしもうた。
人の真似をして欲張るもんじゃあないということだなあ。
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昔、あるところに、おじいさんとおばあさんとおった。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんはおうちで、仕事をしとった。おじいさんが山から帰ろうと思うたら、道端でチュンチュン言うて、雀が鳴いとった。どうしたんかいのぅ思うて、よく見りゃぁ、足にけがして、チュンチュン鳴いとった。そいで、
「おうおう、お前はけがをしたんか。よしよし、そしたらわしが連れていんで、怪我を治してやろう」ちゅうて、手のはらへ載せてつれて帰った。薬をつけて、足に包帯して、毎日それを、つけかえよった。そしたらだんだんよくなって、ちょこちょこちょこちょこいたずらするようになった。
ある日、おばあさんが、おじいさんの留守に、障子を張ろうと思って糊を作った。それを雀が
「ああ、こりゃおいしそうな」いうて、糊をなめてしもうた。おばあさんが雀に
「お前、食べたろう」いうたら、
「わしゃ、食べやせん。おおかた隣の猫だろう」いうた。それで、隣の猫に聞いてりゃ、
「わしゃ、食べやせん」いう。口の周りにゃぁ糊がついとらんで、すずめの口を見りゃ、のりがいっぱいついとるで、
「隣のねこじゃあない。お前がなめたろう。あがなことをしてくれりゃ、わしが、大きなさしつかえだ。まぁ、せっかく、かわいがった雀が悪いことをしてくれた。お前の舌を切ってやる」いうて、はさみで舌切って、
「お前のような、おかりゃぁせん」いうて追い出してしもうたんよの。
おじいさんが帰ってきて、
「雀はどうしたんか」ちゅうたら、おばあさんが
「あんまり悪いことをして、わしがせっかく障子を張ろう思うて糊を焚(た)ぁとったの、みんな食べたけぇ、舌切って追い出した」いうて、言うた。
「まあ、そりゃぁ、かわいそうに、そりゃ、探しにいってくる」いうて、おじいさんが雀を探しにでかけた。
途中で牛を洗いよった人がおったんで
「牛洗いさん、牛洗いさん、ここを舌切り雀がとおりゃぁせんだったかいな」いうたら
「あぁ、通った通った、そりゃ通ったけぇ、この牛あろうた汁一杯飲みなりゃぁ、おせぇたげるが」
それで、おじいさんが
「そりゃぁ、飲む、飲む。おせぇてくれ」いうて、一杯飲んだ。牛洗いのいうことにゃ、
「馬洗いさんが、そこにおるけぇ、行って聞いてみぃ」いうことで、しばらく行きよったら、馬洗いさんがおって、馬洗いさんに
「馬洗いさん、馬洗いさん、ここを舌切り雀が通りゃぁせんだったかいな」いうたら、
「あぁ、通った、通った。この馬洗うた汁一杯飲みなりゃぁ、おせぇたげるが」いうたで、またおじいさんが、
「そりゃぁ、飲む、飲む。おせぇてくれ」いうて、正直に一杯飲んだ。(誰がのみましょうかね)
馬洗いのいうことにゃ、
「このつい先の竹やぶ行ってみんさい。おるけぇ」
行ってみると、雀が竹やぶにとまっとって、
「まぁ、おじいさん、おじいさん、よう来ちゃんさった。私を長しゅぅ(長いあいだ)、ようかわいがっちゃんさって」いうて、喜んで喜んで、そいからまぁ、ごちそうして食べさしたり、踊りを踊ったり、いろいろもてなしをしたりした。
そいから、おじいさんが
「ぼちぼち、帰らにゃ、おばあさんが待っとるけぇ」いうことで、帰るいうたら
「あの、ここにつづら(宝物を入れる入れ物)が二つあるけぇ、どれでもええけ、持って帰りんさい」いうた。
「いや、わしゃ、軽いほうがええけ」いうて、
おじいさんは軽いほうを持って家へ帰って、つづらを開けてみたら、まあいろいろ宝物が入っていた。
おばあさんが、
「まぁ、ほんなら、自分も行ってみる」いうことで、またあけての日、おばあさんが出かけた。(おばあさんは、牛の汁も、馬の汁も、飲みゃぁせんけぇの)
行ったらまた舌切り雀が、ごちそうして食べさしたり、踊りを踊ったり、いろいろもてなしをしたりした。そいから帰りに大きな箱と小さな箱を出して、
「あの、ここにつづらが二つあるけぇ、どれでもええけ、持って帰りんさい」いうた。おばあさんは、
「そりゃぁ、わしゃ、年寄りでも、力が強いけぇ、大きいほうをくれ」いうた。
「やれ、しわい(つらい)、やれ、しわい」いうて、大きいほうを喜んで持って帰ったんだが、
あんまり重いんで、どんなにいっぱい宝物が入っとるか思うて、途中で開けてみたら、蛇やら、お化けやら、蛙やらいっぱいでて、おじいさんところへ走って帰った。
やっぱり、日頃悪いことをしとく者(もの)ぁ、罰があたるもんだ。日頃から、何でもかわいがって、正直に暮らさにゃぁのう。それぽっちり。
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昔々、じいさんとばあさんがおったいうてな。じいさんは山へ芝刈りに、ばあさんは川へ洗濯に行きよった。ばあさんが川で洗濯しよったら、上から、どんぶりこんぶり、どんぶりこんぶり、桃が流れてきたげな。ばあさんは喜んで、
「桃、こっちへ来い。こっちへ来い」いうたら、桃がばあさんのほうへよって来たで、そりょぅ一つ拾って食べた。そいたら、大変おいしかったで、仲のええじいさんとばあさんだけぇ、ばあさんが、
「もう一つ流れて来い。じいさんに持って帰ってあげよう」いうたら、
また上から桃が流れてきたで、そりょぅ拾って帰った。じいさんが戻りゃあ、いっしょにたべよう思うて、じいさんが戻るまで、戸棚の中へ入れといたら、待っとくうちに、夕飯になってじいさんが戻ってきた。じいさんが戻ったもんだけえ、
「じいさん、じいさん、今日はええもん拾うてきたよ。洗濯しよったら上からまげな(おいしそうな)大きな桃が流れてきたで、拾うて戻ったけえ、ちろうて(一緒に)食べようや」いうた。
「よっしゃ」いうわけでなぁ。
じいさんが喜んで、その桃を二つに割ろうと思うたら、ぽっこり桃が割れて、中からまげな(かわいい)男の子が生まれた。
「こりゃあまた、桃を食うたぁよけいええことじゃ。桃から生まれただけえ、桃太郎ちゅう名にしようや」いうて、男の子に桃太郎ちゅぅ名をつけた。
じいさんとばあさんは、ちょうど子供がおらんだけぇ、喜んで、それからまあ、かわいがって大きにしたら、どんどんどんどん大きゅうなって、ええ男になって。ある日、桃太郎が
「おじいさん、おばあさん。わしゃひとつ、鬼退治行こう思うけえ、きびだんごこさえてくれえ」
「そんならしょがないけえ、きびだんごをこさえちゃろう」
そいから、きびだんごをこさえてもろうて、袋へいれて、腰へぶらさげて、どんどん行きよったら、向こうから犬が来て
「桃太郎さん、桃太郎さん、あんたぁどこへいきんさりゃぁ」
「わしゃ、鬼が島へ行って、鬼を征伐する」
「お腰のものはなんですか」
「こりゃ、日本一のきびだんごだ」
「ひとつ、やぁんさいや、わしもついて行くけえ」
「そりゃあ、ま、ついてくりゃあ、やろう」いうて、一つもろうて、喜んでついて行きよったら、猿がやってきて、
「桃太郎さん、桃太郎さん、あんたぁどこへ行きんさりゃぁ」
「今から、鬼が島へ鬼を退治に行こう思う」
「わしも、ちろうていっちゃんさい。わしをつれてくんだったら、ついてっちゃぁだが」
それから猿も、同じように
「腰につけとりんさるのは、何ですかいのぅ」
「こりゃあ、日本一のきびだんごだ」
「それを一つやんさい」
「そりゃあ、ついてくりゃぁ、やろう」いうて、それからまあ、行きよったら、雉が、やってきて、
「桃太郎さん、桃太郎さん、あんたぁどこへいきんさりゃぁ」
「わしゃ、鬼が島へ鬼退治に行く」
「その、腰につけとりんさるんは、何ですかいのぅ」
「こりゃぁ日本一のきびだんごだ」
「一つやんさりゃぁわしもついていく」
またきじもそういうようなことで、お供するとなって、またどんどん行きよったら、鬼がすんどる鬼が島へたどりついて、みりゃあ、門があるけえ、雉が先い飛んでって、中に入って内から門をひらぁて、それから、猿と犬と桃太郎さんと中へ入って行った。
鬼はたまげて、抵抗したとこが、桃太郎さんは、強いけえとても鬼はかなやぁせん。犬はかみつく、それから猿は爪がええけえ、ひっかく、それから、雉は目をつっつく、鬼は、さんざんなめにおうて、とうとう降参した。
鬼を退治しようと思うたところが、
「命だけは助けてくれ。宝物はあげるけぇ。命だけはこらえてくれ」
そいから今度桃太郎さんは宝物をもろうて、
「犬が引き出すエンヤラヤ。猿が後押すエンヤラヤ。雉が綱引くエンヤラヤ」いうて、桃太郎さんと犬と猿と雉は、歌を歌ってええものを持っておうちにもどった。じいさんとばあさんは大変に喜んだいうてね。それでまあ。ぽっちり。
(編集者注:桃太郎の中にでてくる桃や瓜子姫の中に出てくる瓜が流れてくる音には『こんぶり、こんぶり』『ぽっかり、ぽっかり』『どんぶらこ、どんぶらこ』『どんぶらこっこ、すっこっこ』『どんぶり、こんぶり』などがあります)
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昔、あるところに、おじいさんが、片方のほっぺたに、こぶのあるおじいさんがおって、そして隣にも、片方のほっぺたにこぶのあるおじいさんが、いいおじいさんと、悪いおじいさんが住んどった。で、いいおじいさんが、木をこり行ったら、ザンザン、ザンザン、雨が降り出した。そして
「こりゃぁ、やれん。雨が降るけぇ」思ってみたら、そばに大きな木のほこらがあった。
ふんで、奥のほうでえらいにぎやかな声がしよった。入ってみると、中では、鬼が、赤鬼やら青鬼がな、飲んだり、食べたり、踊ったりしよった。そいでそれをみたら、大変おもしろかったんで、おじいさんも仲間にはいって、そして、こう手ぶりよく踊りだした。
そしたら、
「おぉ、じいさん上手だ。まぁ、一杯お酒を飲んで、おどりんさい」ちゅうて、いっぱいごちそうをよばれて、いっぱい酒を飲んで、ええ気持ちになって、ものすごう踊って、
「やれやれ、おもしろかったのう」いうてそのほこらを出たら、雨がちょうどやんどった。
鬼が
「また、じいさん来てくれ。もし来ん時には、やれんけぇ、だいじなほっぺたのこぶを、あしたまで、むしりとっとく」ちゅぅて、いうた。
「これを取ってもらっちゃ、やれん」ていうたが、
「また明日来たときに、こりゃひっつけてやる」いうて、こぶをポコッと取った。
そうして、おじいさんがうちに帰ったら、隣のおじいさんが
「おじいさん、ほっぺたのこぶどうしたんか」
「いや、今日は、こうこうでな。あの、鬼と、踊りを踊ったり、酒を飲んだり、ごちそうをよばれてたら、また明日来い言うた。あしたまで、ほっぺたのこぶを、もろうとくけぇ、いうて取った」
「まぁ、そりゃええことした。わしも、このこぶ邪魔になってやれんけぇ。わしも明日行って、取ってもろうちゃろ」
そのあくる日、そのおじいさんが、山へ木をこりに行った。そしたら、そこに木のほこらがあって、そこに入ってみたら、あいかわらず奥のほうで、鬼が、酒を飲んだり、踊りを踊ったりして、宴会しよった。ほんで。
「よしよし、ここで踊っちゃりましよう」いうて踊ったんだが、
前に来たおじいさんはものすごう踊りが上手なんだが、今度のおじいさんはものすごう踊りが下手くそで、食べることちゅうたら、よく食べるし、飲むことちゅぅたら、よく飲むし、踊ることちゅうたら、踊りは下手くそだし、調子に乗って、踊りよったところが、
「これは、違うじいさんが来た。昨日のじいさんじゃない。もうこんでもええけぇ、昨日のじいさんのこぶもひっつけちゃれ」いうて、こぶのないほうのほっぺたへ、ぺたっとまひとつひっつけた。
そいで両方こぶだらけになって、おじいさんが、ように、悲しがって、くたびれて帰った。
それで、いい事をするものは、ちゃんといいことがあるが、日頃悪いことをしよったら、やっぱり、ええことがない。いつもええことしとらにゃいけんいうことよの。そういうお話。そいでポッチリ。
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