目次

 

ままこいじめままこいじめえんこうのけつ抜き狐のあたん返し和尚と狸えんこうの駒引き

 

ままこいじめ

 

 昔、娘の子が二つおって、それがお母さんがはよう死んで、お父さんと一緒に暮らしておった。

 今度、ままははが来て、そいで、ある日、お父さんとお母さんが、寝物語に

「子供がおるんだが、それが、わたしゃぁ面倒なけぇ、始末してくれぇ」

「そんなら、どがぁすりゃぁええのか」

「そりゃぁ、あしたにな、あんたぁ山へ行くけぇ、それでひとつ、姉娘に弁当持っていかせるけぇ、鉄砲でひとつ撃ち殺してくれぇ。妹のぶんは私に任せてくれぇ」

 

 それで、姉さんが、あくる日弁当を持って、石のところで座って泣きよった。そしたら、旅人が通りかかって、なぜ泣くのか聞くと、

「わたしゃぁなぁ、わたしゃぁ、この弁当をもっていきゃぁ、お父さんに鉄砲で撃ち殺される。妹はうちで、お母さんに、釜でゆで殺される。それで、それが悲しゅうてならん」いうて、泣きよった。

「そんなら、わしが助けちゃるけぇ、すぐいね」

 それから、いそいで子供をつれていんだら、お母さんが庭にな、大きな釜をかけて、それへ湯をいっぱい入れて、火を焚きよった。

「こりゃぁ、何か」いうと、

「こりゃぁ、みそ豆を煮よるだ」

「そんなら、わしゃぁ、みそ豆が好きだけぇ、そりょぅ、ちいとよんでごせんか(食べさせてくれんか)

「こりゃぁ、まだ生煮えじゃけぇ、かせられん(食べさせられん)

「わしゃぁ、生煮えが好きじゃけぇ」いうて、蓋取ってみたら、女の子が中へ入っておって、まだ生きとった。

 そいで、その男が役所へ訴えて出て、お父さんとお母さんは仕置きにおうた。その娘の子は二人、その人に助けられて幸せに暮らしたそうな。

 

 それで、みそ豆というのは、豆をたく家がありゃぁ、必ず後戻りしてでも、その家によって、ごっそうにならにゃぁいけんいうことを、ま、いいよった。

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ままこいじめ

 

 たいそう雪が降って竹がたわんで(曲がって)、割れるで、継子に

「竹やぶの雪をふるうてこい」いうて、雪をふるわした。

「子供が戻ってこん。どがしたか」いうたら、

「ありゃぁ、背戸の竹やぶの雪をふるわしたが、戻ってくるはずだが」

 竹やぶに行ってみりゃぁ、雪の下になって、死んどったいう話だ。

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えんこうのけつ抜き

 

 水遊びへ行けば、えんこうがけつを抜くぞ、というて脅しよっとよ。それで一人では川へ水遊びに行かん。それが、えんこうがなぜけつから、手を入れて人間の肝を取るかということが、実はわたしら、分からざった。無理にけつから、手を入れて肝を抜かぁでもええし。

 

 ところが、寺のおやじが話して聞かすのに、えんこうというものは、人間の肝がとても栄養になるんで、どうしてもほしんだと。

 それであるときえんこうが、人間の肝が食べたいなぁ、いうようなことで、あまだへ上がって、どがぁず、人間の肝を取る法がないか、考えよった。

 人間の寝てから取る、そんならどこから取りゃぁええか、いうことを考えよった。そしたら、あるとき、おやじさんが竹やぶから、竹の子を掘って戻って、それから、かかあさんが竹の子を切って、鍋で茹でて、ばかばかおかずに食いだした。こりゃぁ、こな人間いうものはたいした歯の力を持っとる。竹でさえ食うようなら、とても口の中から肝を取り出すこたぁならん。難しい話だ。

 

 そうすると口以外に穴があるのはどこだろうか。そいから人間が便所へ行くんで、便所へついていってみりゃぁ、下のひらに穴がある。ははぁ、これに限る。とても口から手を入れたじゃぁ、人間、竹を食いきるくらいな力を持つ。

 そりゃぁ、手を入れたら食いきられるけぇ、入れられぬが、けつから入れたが一番ええじゃぁないか、いうことで、えんこうはけつから手を入れて人間の肝を取り出す。

 いうのがえんこうのけつ抜きのいわれだちゅうことを、寺のおやじが話して聞かしてくれた。

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狐のあたん返し

 

 昔はなぁ、狐がようけおって、狐ちゅうものは野原へ、このう、穴を掘ってそこへ住むんだそうだ。

 それで、あるおじいさんが、狐のじょう(巣)みたんだが、そのまわりにいっぱい、この、草が生えとるんだそうだ。そりゃぁ、狐のためには、穴ぁ隠すために草わらをかけとったんだが、まぁ、それでおじいさんは、親切に、

「まぁ、こりゃぁなぁ、こがぁに狐のじょうの周りがいっぱい草じゃぁ、さぞこりゃぁ、うっとうしかろう。これ、きれいに刈ってやろう」いうて、きれいにその周りを刈ってやったいうて。

 

 そしたらな、その晩にその狐が夢にでてきて、

「おじいさん、おじいさん、これの雨戸や、戸やら障子をみんな、(はずいて売ったら、福が授かるよ」いうて、その狐がいうた。

 そいで、今度はな、そのおじいさんは夢で聞いたもんだけぇ、戸やら障子をみんな、はずいて売ったそうだ。

 そしたらな、そのあくる晩にその狐がまた夢に出て、

「おじいさん、涼しゅうてよかろう」いうたいうて。

 

 そりゃぁなぁ、あの狐の巣の周りを、草を刈りゃぁ涼しゅうてよかろうけぇ思うて刈ったところを、こんだぁ、狐のためにゃぁ、それが不足(不満)なもんで、今度その狐があたんがえし(しかえし)に、おじいさんの夢に出て、戸やら障子をはずいて売ったら、福が来るいうた。

 そりょぅ、売ったら、またおじいさんの夢に出て、こんだぁ、涼しゅうてよかろういうて、狐が言うた。

 ちゅうようなことも、わしらぁ、聞いとるがな。

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和尚と狸

 

 ある山寺に、和尚さんが一人おったんだそうだ。それで、ある寒い寒い小雪の降る晩に、こう、囲炉裏端で和尚さんが一人あたってたら、そしたら外の戸をこんこんこんこんたたく者がいるってなあ。

 それで、ちょっと出てみたら、狸がなぁ、まぁ

「和尚さん、和尚さん、寒いんで、今晩少し泊めてください。寒うてこごえ死にそうだ」いうて、狸が和尚さんに頼んだ。

「ああ、そりゃ寒い晩だし、ここへ来て。ちょうど火を焚いて暖かい。部屋が暖かいけぇ、まぁ上がれ」いうて、上がらしたら、

 その狸は、ようにやせてやせて、やせ衰えた狸だった。

「まぁ、まぁ、どがぁしたんなら」いうたら、

「わたしゃぁ、今病気で、こう、食べ物もなし、雪の下で食べ物はなし、もう苦しんどりましたが、もう、和尚さんに助けられて、ありがとうございます。これで暖こうなりました」

「それなら、まぁ、あんた、病気が治るまで、この寺におるがいい」

 で、天気になるまで、そのお寺で、おいてもろうたんだそうだ。

 そして、和尚さんがまぁ

「わしは何も願いごというちゃぁないだが、わしが死ぬまでに、ひとつ、金のわらじがみたい。持ってみたい」いうて、話とった。

 それをいつも聞いとった狸が、元気になってから

「和尚さん、これで長いことお世話になりました。体も丈夫になりましたし、これでおいとまさしてもらいます」いうて、その寺をなごり惜しそうに、和尚さんと別れて、出て行ったんだそうだ。

 それで、その狸が

「和尚さんはいつも何も欲しいものはないが、金のわらじが欲しいいうて言うとっちゃったで、とにかくわしは、出て働こう。その金のわらじとやらを金を貯めて探して、それを買うて、和尚さんとこいって喜ばしてあげよう」

 

 それでまぁ、とにかく、お寺から出て一生懸命働いたんだそうだ。その狸がのう。働いて、やっとこさ、もうだいぶお金が貯まって、これなら金のわらじ買われるだろう思うて、全国ずうっと歩いて探し回ったが、なかなか見つからない。

 それでも、もう方々を歩き回って、やっと金のわらじを見つけて、ああ、これで和尚さんに恩返しができる思うて、その金のわらじを喜び勇んで持って、和尚さんのお寺へ帰ってきて、こんこん、こんこん戸をたたいて、

「和尚さん、和尚さん、かえってきましたよ」いうたら、和尚さんが、

「こりゃぁ、前の狸の声だな」いうて、飛んで出たと。

 そしたら、もうやせ衰えた狸がひょろひょろになって、ころげこんで、

「和尚さん、これ、和尚さんにあげます」いうた。

「まぁ、こりゃ、どうしたことか。欲しがってた金のわらじじゃないか」

「はい、長いことお世話になった恩返しに、と思うて、一生懸命働いて、金のわらじを探してきました。このわらじを受け取ってください」いうて、わらじを和尚さんに渡したんだそうだ。

 そして渡したもんの、「ほうっ」とそこで、息、切れて死んでしもうた。

「まぁまぁ、ほんのわしのためにこうして、欲しい言うとったばっかりに、身を粉にして働いて、探し回って、ここまで届けてくれて、もうここまでたどりついてくれて、死んでしもうた。まぁ、かわいそうなことをした。あんなこと、言わにゃぁよかった」いうて言うた。

 それから、和尚さんはその狸をねんごろに葬って、一生菩提を弔うてやったいう話を何やらで、聞いたような気がするが。

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えんこうの駒引き

 

 えんこういうものはうそ(かわうそ)じゃぁないいうて。頭の上がなぁ、ほんに大根でも切ったようにスポットろくな(平らな)もんで、それにちょこっとくぼみがあって、その中が赤うなってとる。

 

 ある家の近くに(つつみ、ため池)があったんだが、そのほとりに土手へ向けて、馬をつないでおきよりんさった。

 それがちょうど、馬が土手へつないであったのを、えんこうが馬を取ろうおもうてなぁ、馬の綱を解いて、堤へ持っていって、引っ張り込んだ。

 そいで馬ちゅぅものは、腹へ水がたわにゃぁ(とどかなければ)、おとなしゅぅ、川へでも入るもんだが、腹へ水がとうたちゃぁ、気に入らんけぇ、はだけり上がる(飛び上がる)ものだげな。

 

 それをえんこうが馬を取ろう思うて、解いた綱をなぁ、自分の体へ、どうのこうなぁ巻きたてて、馬を引っ張って、堤へ入っていった。ところが、馬は腹へ水がとうたけぇ、だまに上げて(たまげて、びっくりして)、綱がつないでないもんだけぇ、手前のだや(家畜小屋)飛んで入って行った。

 家の下男のぶんが、馬のもりをしたり、百姓をしたりしておったが、昼に馬にかいばをやろう思うて、行ってみりゃぁ、馬はだやへもどっとる。その綱はなぁ、尋ねてみりゃぁ、だやの隅っこへ持っていって、まぐさをやる(おけ)をくるっとふせて、その下へむけて綱が入っとった。おかしいと思うて、おこいて(起こして)みりゃぁ、えんこうが体へ綱を巻いて、隠れとった。えんこうは馬に蹴り上げられてなぁ。その綱をゆるしゃぁ(離したら)ええものを、恐れてしっかり綱をつかまえとったけぇ、馬へ連れていなれた(帰られた)んだなぁ。

 

 そいから今度、えんこうがおったけぇ、こりょうどがぁすりゃぁええかいうことになって。えんこうがすぎなを抜きゃぁ、すぎなが絶えるいうことだけぇ、すぎなを抜かせようちゅぅ話になった。

 うちのおばあさんは若いときにゃぁ、女中やら炊事のてご(手伝い)をしたり、仕事をしよっとりんさったが(しておられたが)、そのおばあさんへえんこうを連れていってなぁ、

「わりゃぁ、えんこうを連れてすぎなを抜け」ちゅぅて言う。

「そいなら、そがぁしよう」ちゅぅことで。

 えんこはけつを抜くいうだが、あれは、金気(かねけ)が、鉄がとても嫌いだけぇ、茶釜の蓋を、あれをこう尻にあてごうてなぁ。そいで、えんこうを連れて行ったんだが、すぎな畑へいくまでに、こまい溝がある。そのこまぁみぞへ入りたがってどがぁもならん。あれが、頭の天こう(てっぺん)のくぼい所へなぁ、水がいっぱいたまっちょっちゃぁ、千人力あるちゅうて、力の強いものだげな。

 えんこうにすぎなを抜かせたところが、さいさい(しょっちゅう)けつへ手をのける(伸ばす)げな。ところが茶釜の蓋が尻にあてごうてあるだけぇ、つい(すうっと)手ぇ引っ込める。そいからまたしちゃぁ、こう手をのける。

 そいでほんに(ほんとうに)けつを抜くいうが嘘じゃぁなかろう思ういうて、おばあさんがいいなった(いいなさった)

 

 えんこうの手ちゅぅものは、こっちぃ向き、あっちい向きする。それが、手がなぁ、ずぅっと倍のぶ(伸びる)だげな。それでこっちの手が、ずぅっと引っ込む。右手を伸ばしゃぁ、右手を長(なご)う、長う伸ばしゃぁ、左手が引っ込む、左手を延ばしゃぁ、右手が引っ込む。そりゃぁ妙なもんだ。

 えんこうを宙に(空中に)、こう持ち上げりゃぁ、軽いもんだ。こまいもんで、猿のようなものだけぇなぁ。

 

 一週間たらなんぼうたら(一週間くらいの間)すぎなを取らしたんだが、えんこうが抜いたところは今だにすぎなが生えんそうだ。すぎなを抜くのにのぅ、えんこうはちぎらんだけぇな。こがぁして、じわ~っとして抜く。えんこうが抜いたところはすぎなが広がらんいう話だなぁ。

 

 それから、石を持ってからに、『これから絶対に人を取りません』ちゅうことを石に書いて、

「この字が消えたら、取ってもええけぇ」いうたところが、えんこうはその字を消そうと思うて、毎日毎日、指でその字をなすりよった。ところが、石はどんどん深うなる。指はちび(短くなる)ようでも、字はどんどん深うなって、消えるようなことはなぁけぇ、とうとうえんこうは取らんようになった。

 それまでは、その堤でえんこうがよう取りよった。人を取ったり、子供をなぁ。そいから馬を取ったり。それがいっそ(全く)やらんようなった。

 という話を聞いたことがあるんだがのぅ、子供のときになぁ。

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