おうもう鳥・ねずみ浄土・のみとしらみの京参り・芋ころがし・海老のはかま・仲人口・ろうそく・瓜子姫
まだ十(とう)に足るか足らんぐらいの小さな女の子が、冬の寒い最中に、囲炉裏端で、苧(お)をうめぇ(麻糸をつくれ)いうて、継母(ままはは)から強いられてのう。まぁ、お母さんは継母だけぇ、そこのうちのいごずれ(後妻)としてもらったんだけぇ、わがままでのう、それを通して(許して)やっとったわけだよな。
ところが、たまたま(時々)、その女の子に、いま言うたような難しい仕事をせぇよ、いうておいて、親は遊びに出る。これだけのことをやっとけよ、というて出かける。そして、やるのに、ま、朝から晩までかかっても、なかなかできん。そういうようなわけで、本当に火にも当たられんけぇ、手にゃぁ、赤切れもできるし、ひびも切れるし、赤切れの間に、その麻の糸がくいこんだりして、ま、泣き泣きやるような毎日が続いとったわけだ。
ところが、その、ある冬の夕暮れのときに、どういうわけか、その子が遊びとうなって、まぁ、半日ぐらいならええだろう、と思うて、友達と一緒に遊んどった。で、日が暮れるのを忘れて遊んでおったところが、さあ、暮れだした。
こりゃぁ、帰らにゃぁ、怒られる、思うて、急いで帰って、今度やろうとしたところはええが、火も焚いてないだけぇ、火も炊かにゃぁいけん。そうして今度、やっと火がくすぼりながらでも燃えたったところで、落ち着いて苧(お)をうみよった格好をしたものの、何ぼうもできとらん。
お母さんが帰ってきて、お前は、何をしとったんか、しごにならん(ずるがしこい)けぇ、ぎょうぎをしちゃる(行儀をする、しつけをする)、いうて、その子供を折檻するわけだ。あの火吹き竹(ひふきだけ)でたたいて、火箸でたたいて、責めあげたんだのう。
今度その、うみ終わらん(糸にし終わらない)麻を、体へぐるぐる巻きにして、そのまんま、燃え盛ろうとするいろりの火の中へ、くべて(投げ入れて)しもうたわけだ。その子供を焼き殺してしもうた。そうしたら、焼けた黒い塊りから、黒い羽が生えたものが、鳥になって一羽飛んで出たという。夕方にのう。
今でも、夕暮れ時になりゃぁ、山の中のほうで、悲しい『苧をうもう』『オーウモー』『オーモー』いうて鳴く。あがぁな声で鳴く。聞きようによっては、そう聞こえんこともない。
『苧をうもう』いうて字に表わせば、まぁひとつの言葉なんだけど、それを通して言うた時にゃぁ、『オーウモー』『オーモー』と聞こえる。『苧をうもう』いうて鳴く鳥だけえ、そんで、『オーモー鳥(どり)』ちゅうて名がついたわけよ。そいだが、他にはどういう鳥だ、いうことはない。
わしらが子供の頃、夕暮れ時になると、悲しい声で、『オーモー』『オーモー』いうて鳴くのを、聞いたことが、まぁ、二回ぐらいは、ありよった。これはみんな子供の頃から聞かされた話だがの。
「ええ子をしとれよ。もうちょっとすりゃぁ、オーモー鳥が鳴くけぇのう」いうて言われたけぇの。
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昔々、ええじいさんが山へ、きこりぃ行った。昔は、米がようけないけぇ、くずの根を団子にして、くず団子にして、あれを持って、山へ行って、昼飯をくおうと思ったら、だんごがまくれた。コロコロ、コロコロまくれて、穴の中へまくれて入ったと。
「だんご待て、だんご待て」言うてじいさんも穴の中に入って、
じいさんがどんどん、どんどん穴の中にはっていくと、穴の奥のほうで、ねずみがたくさん、
「猫さん、ござらぬうちに、餅ついてペッタン、ペッタン」
「猫さん、ござらにゃぁ、ねずみの世ざかり、えっさぁ、もっさぁ、ペッタン、ペッタン」いうて、餅をつきよった。
おん」いうて、猫の鳴き声をした。そしたら、ねずみは驚いて、餅もなにもかもみな置いて、逃げてしもうた。じいさんはその餅をぜんぶ、もろうて持って戻って、自分のばあさん呼んで、ちろうて(一緒に)食べよう思うたが、これはとても食べられやせん。
隣のじいさん、ばあさん呼んでこいやいうて、ちろうて食べた。
隣のじいさんが
「これは、これにゃ(このうちでは)、どがして、餅をこさえんたか」
「いや、うちのじいさんが、山へ行っての、これこれこういうことで、ねずみが餅をつきよったけぇ、それを持って戻ったんだ」
それから、今度、隣の欲張りばあさんが、いじわるじいさんに
「お前も、行ってみぃ。餅を拾うてもどりんさい。それをちろうて食べようや」いうた。
そいで、隣の欲張りじいさんが、だんごをえっとこさえてもろうて、山へきこりに行って、団子をわざと、まくると、団子はコロコロ、コロコロ、まくれて、穴の中へ入って行った。
「団子待て、わしも行く、団子待て、わしも行く」いうてじいさんも穴の中へ入った。
じいさんがどんどん、どんどん穴の中へはいっていくと、穴の奥のほうで、ねずみがたくさん、
「猫さん、ござらぬうちに、餅ついてペッタン、ペッタン」いうて、餅をつきよった。
「ははぁ、これだな、こりゃええことだ」と思うて、じいさんは「にゃぁおん、にゃぁおん」いうて、猫の鳴き声をした。
ところが、ねずみが
「きのう、わしらをだました、あのじいさんだな、またやって来やがった。こいつはやれんのぅ。また餅を横取りされるけぇ」いうて、みんなでじいさんによりたかって、かみついて食い殺して、しごをした(やっつけた)。
『人の真似をすりゃ、尻を切られる』いうことをいいよったが、ま、人の真似をするなちゅぅことだな。それ、ぽっちり。
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のみがしらみに
「今度、京都へ参ろうじゃなぁか」
「そりゃぁまぁ、ええが、わしゃ道をようしらんだけぇ、お前の後について、でなきゃぁ、よう参らん」
「ほんなら、わしが案内してやるけぇ、ついて来い」
のみが、ぴょんと飛んじゃぁ、今度しらみが追うてくるやつを、待ちよったちゅうだぁの。
とってもじゃぁなぁが、ぴょんと、ひと跳び、跳びゃぁ、しらみは後ろをよちよち歩くだけぇ、今度しまいにゃ、けんかになったちゅうだ。
「お前みたいにのろのろしたやつにゃ、連れちゃ行けん」
「お前が連れてっちゃる言うたけぇ、わしは一生懸命歩きよるけぇの。お前が言うたけぇ、わしも、うちを出ただ」いうての。
それからまぁ、のみがごうぎに(豪儀に、はげしく)しらみを押さえつけて、けんかになってのぅ。
こりゃぁ、役人呼んで、役人にひとつ仲裁してもらわにゃぁ、いうことになっての、それから、役人がとこへ行ったところが、
「ありゃ、のみ、お前が悪い。あくまでも、お前が連れて行っちゃる言うたけぇ、こりゃ出たいうただけぇ。お前が悪い」
それからまぁ、役人の採決があって、そこでまぁ、のみが恥をかぁて、それでのみが今も赤ぁ顔しとるいうだ。それから、けんかやって、のみが押さえつけたけぇ、しらみは生涯ぺちゃぁと平べっちゃぁなった。
のみとしらみの京参りいうての、まぁそういうような話だ。
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どっか、よほどええ家へ呼ばれに(招待されて、ご馳走を食べに)行ってな。庄屋さんについて、五、六人のものが連れおうて(誘い合わせて)でかけた。
「呼ばれぇ行くには、どがぁしたらえかろう」いうて言うたら、庄屋さんが、
「よほどその立居振舞いの行儀をようせにゃぁならん。それからまぁ、膳が出てきたときにゃぁな、お前たちがわからにゃぁ、わしが先いやるから、それを見ればええ。わしがするとうに(通りに)すりゃぁええ。
わしがするのを見て箸をとったり、お汁を飲んだり、いろいろすればええから、わしを見てやれ」いうた。
そいで、庄屋さんが、里芋の煮しめを取ったときに、里芋ちゅうなぁ、すべるもんだから、ころっとまくれた(ころがった)。
そしたら、あとのもんがみんな、あっ、庄屋さんがまくったけぇ、あのとう(通り)すりゃぁええ、思うて、芋の煮たのをまくったちゅぅ話だ。
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婿さんが祝言のときに、海老が出るから、そのときには(海老の)袴を取って食べぇよ、言うて聞いておった。そいで、海老を食べるときになって、婿さんがこう、ごそごそするから、
「何をするんだら」言うたら、
「海老が出たで、わしのはいとる袴を取って食べよう思う」いうた。
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仲人が、まげな(うまいことを)いうて、娘をつれだぁて、嫁に行かせよった。
「あそこじゃ、餅を六斗搗くけぇ」いうて言うた。
「はぁ、そうかい、そうかい。ほんならだいぶ身上のいい家だ」いうて、娘をやってみたが、身上のいい家じゃぁなぁ。
婿さんが六いうて、そいでつろうて(一緒に)餅をつくで、
「六と搗く」いうてな。
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奥山いう村があった。そこで仏事をして、そいで都会で働いておる息子が、仏事に、何か白い、細長いものをようけ(たくさん)、送ってきた。これが何だやら、さっぱりわからん。
「和尚さんに聞いたらわかるだろう」いうて、お膳へ一つずつ並べとった。
そしたら、和尚さんが、こられて、みると、お膳に白い、細長いものが一本あるから、ひょっと、それをお膳の隅っこに立てられた。和尚さんが立てられたもんだから、みんな真似して、お膳の隅っこにその白い、細長いものを立てた。
和尚さんはおかしゅうなって、お勝手のほうへ、はっていっちゃった。そしたら、みんなぞろぞろ和尚さんについて、お勝手のほうへ、はっていったそうだ。
その頃は、奥山では、みんなろうそくいうものを、知らなかったんだな。
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昔、昔あるところに、おじいさんとおばあさんが、おったそうな。
おじいさんは、山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行ったそうな。
おばあさんが川で洗濯しよると、川上から、大きな瓜が、ドンブラコッコ、スッコッコ、ドンブラコッコ、スッコッコ、と流れてきた。おばあさんがそれを拾って食べると、よほどうまかったので、
「もうひとつ流れぇ、おじいさんに持っていんでやろうぞ」と言うと、
またドンブラコッコ、スッコッコ、ドンブラコッコ、スッコッコと今度は持って帰るのがしわいような(つらい)大きな瓜が流れてきた。おばあさんは瓜をざるに入れて、ウンコラショ、ウンコラショいうてもって帰った。その瓜をひつの中に入れて、おじいさんの戻るのを待っておったが、おじいさんはなかなか戻らんので、かど(おもて、家の前)へ出たり入ったりした。そのうちおじいさんが戻ってきたので
「おじいさん、遅かったのう、はぁ戻んさるか、はぁ戻んさるか思うて待ちよった。おじいさん、今日はのぅ、川で瓜が流れてきたで、食うたらあんまりうまかったで、『もうひとつ流れぇ、おじいさんに持っていんでやろうぞ』というたら、こがぁに大きな瓜が流れてきてのぅ。それで、お前とつろうて食おぅ思うて待ちよった。割って食おぅや」
おじいさんが包丁で割ろうとすると瓜がぽっかり割れて、中から、かわいい女の子が生まれた。おじいさんとおばあさんは、たいそう喜んで、女の子に瓜から生まれた『瓜子姫』いうて名をつけよった。
おじいさんとおばあさんは女の子をだいじに、かわいがって育てた。瓜子姫はどんどんどんどん大きうなって、それはそれはきれいな女の子になった。瓜子姫がいうことにゃ、
「おじいさんさい(機織で使うひ)をこさえちゃんさい。おばあさん糸をつむがんさい(つむいでください)。機を織るけぇ」
それからおじいさんはさいをこしらえたり、おばあさんは糸をつむいだりして、瓜子姫は機を織っておった。
「じいさんさいがない。ばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン。じいさんさいがない。ばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン」というて、機を織っておった。
おじいさんとおばあさんは、外へ出る時分にゃぁ、
「あまんじゃくちゅぅ悪いやつが来るけぇ、きても、戸をあけるんじゃないけぇのぅ」いうて、よういうてかして(聞かせて)外に出ておった。
やがて瓜子姫は大きゅうなって嫁に行くことになった。
ある日、瓜子姫が
「じいさんさいがない。ばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン。じいさんさいがない。ばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン」というて、機を織っておったら。
そしたら、あまんじゃくがやってきて、トントンと戸をたたいて、
「お姫さん、お姫さん、ここの戸をちいと開けてくんさい」ちゅうて言うた。
「いんや、いんや、おじいさんとおばあさんがやかましゅう言うたけぇ、開けられん」
「お姫さん、お姫さん、あがぁいわんと、そんならまあ、ちぃと指が入るほど開けてくんさい。叱られりゃぁ、わしがことわり(わび)をいうたげるけぇ」
「そんならまあ、指が入るほどなら、開けちゃろう」言うてちいと開けた。
「お姫さん、お姫さん、ようみえんけぇ、腕が入るほど、開けてくんさい。叱られりゃぁ、わしがことわりをいうたげるけぇ」
「そんならまあ、腕が入るほどなら、開けちゃろう」言うて腕が入るほど開けた。
「お姫さん、お姫さん、ようみえんけぇ、頭が入るほど、開けてくんさい。悪いことはしませんけぇ、開けてくんさい」
「そんならまあ、頭が入るほどなら、開けちゃろう」言うて頭が入るほど開けた。
瓜子姫が頭が入るほど戸を開けると、頭が入りゃぁ、たいがい身も入るだけぇ、あまんじゃくが中に入ってきて、
「お姫さん、お姫さんこれから柿ゅぅ採りに行こうじゃぁなぁか」
「いんや、いんや、ここから出りゃぁ、おじいさん、おばあさんが叱ってだけぇ、やんだ」
「いんや、いんや、せわないけぇ、おじいさん、おばあさんおってのうて(おられんので)、家にゃ、また戻りゃ、せわないけぇ」
それで、あまんじゃくと瓜子姫は柿の木のある柿の木谷へいった。あまんじゃくは高い柿の木に登って、まげな(うまそうな)熟柿(じゅくし)を取っては食べ、取っては食べ、瓜子姫にはひとつもやらんで
「こりゃぁ、さぁね、さぁね、さぁねんだ」というて、さね(種)を投げてやる。今度は
「こりゃぁ、しゅぅり、しゅぅり、しゅぅたん」というて、しゅうたん(渋柿)を投げてやる。
「あがぁに、さねやらしゅうたんばかり投げてくれんこぅに、柿取ってくれにゃぁ、食べられんじゃぁなぁか。せっかくここに来てからに」
「そがぁにいうなら、あんたが取るがいいじゃぁなぁか」というて、瓜子姫を柿の木にあがらせて
「そがぁな、ええ着物を着てのぼりゃぁ破れるけぇ」いうて、自分の汚い着物は瓜子姫に着せて、自分は瓜子姫の着ておったきれいな着物を着て、
「もっとそら(上)、もっとそら」というて、瓜子姫を大きな柿の木のてっぺんに登らせて、かずらをもってきてしばりつけた。
あまんじゃくは瓜子姫のきれいな着物を着て瓜子姫に化けて
「じいさんさいがない。ばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン」いうて機を織っておった。
それから、あまんじゃくはきれいな着物を着せられて、かごに乗せられて嫁に行くことになった。
「柿の木谷(かきのきだに)と栗の木谷があるが、どっちを通ろうか」とおじいさんとおばあさんがかごやに言うたら、
「柿の木谷は、柿の葉ですべって通られん、栗の木谷は、栗のイガがいとうて通られん。すべっても痛(いた)ぁたぁええ」いうて、
「そいじゃぁ、柿の木谷を通ろう」
大きな柿の木に下にくるとかごやが
「まぁ、ここで一休みしようや」いうた。柿の木の下で一休みしていると、とんびが空で、
「キーリスットン、バットントン。じいさんさいがない。ばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン。あまんじゃくはかごで行く、瓜子姫ゃぁここにおる。熟柿(じゅくし)ですべってころんで、しゅぅり、しゅぅたん、スッテンテン。ピーヒョロロ」と鳴いた。
そいで、のって(背中を伸ばして)みりゃぁ、大きな柿の木のてっぺんに瓜子姫が縛り付けられておる。かごん中を見りゃぁ、あまんじゃくがおる。
「こりゃぁ、あまんじゃくが瓜子姫に化けとる」ちゅうことになって、
あまんじゃくは三つに切られて、そばと、きびと、かやの根元に埋められた。それで、いまでもそばと、きびと、かやの根は赤いんだというて、うちのおばあさんが言いよった。瓜子姫は助けられてお嫁に行ったという話だ。
悪いことをしちゃぁいけんでなぁ。
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