標準語訳邑智郷の民話

 

 (編集者あいさつ)

 「邑智郷の民話」の中から特にストーリーの面白そうなものを選び、標準語に直してみました。ストーリーが面白くても、民話を支えていた日本の原風景が失われたり、今は使われていない言葉が含まれていたりなどして、話の背景を説明するのに時間がかかるような話は残念ながら収録しませんでした。

 

 目次

1.      くもの巣  PAGEREF _Toc268443498 \h 1

2.      ねずみのお経  PAGEREF _Toc268443499 \h 2

3.      瓜子姫  PAGEREF _Toc268443500 \h 3

4.      猿の一文銭  PAGEREF _Toc268443501 \h 5

5.      花咲じいさん  PAGEREF _Toc268443502 \h 8

6.      狐屋敷  PAGEREF _Toc268443503 \h 10

7.      舌きりすずめ  PAGEREF _Toc268443504 \h 11

8.      団子待て  PAGEREF _Toc268443505 \h 13

9.      法事の使い  PAGEREF _Toc268443506 \h 14

10.     屁ひりじいさん  PAGEREF _Toc268443507 \h 15

11.     へひり嫁  PAGEREF _Toc268443508 \h 16

12.     かちかち山  PAGEREF _Toc268443509 \h 17

13.     とっつくひっつく PAGEREF _Toc268443510 \h 19

14.     狐に化かされた話  PAGEREF _Toc268443511 \h 20

15.     狐の恩返し PAGEREF _Toc268443512 \h 21

16.     飯を食べない嫁  PAGEREF _Toc268443513 \h 24

17.     猿の婿入り PAGEREF _Toc268443514 \h 25

18.     蟹のあだ討ち  PAGEREF _Toc268443515 \h 27

19.     鼻が利く話  PAGEREF _Toc268443516 \h 28

20.     桃太郎  PAGEREF _Toc268443517 \h 31

 

くもの巣

 

 ずいぶん昔のことだが、きこりが山で、足を伸ばして、昼飯を食べていた。そしたら、蜘蛛が一匹ぞろぞろっとやってきて、伸ばした足に蜘蛛の糸をひっかけはじめた。

「おや、この蜘蛛、おかしいぞ。俺の足へ、蜘蛛の糸をかけ始めたぞ」

 はじめは、片側の足へ糸をひっつけていたのだが、だんだんと両方の足へ糸をひっつけ始めた。糸をつけては、ずうっと谷のそこへ降りていく。糸をつけては、また、ずぅっと谷のそこへ降りていく。きこりがじいっと見ていたが、不思議でならない。それで、これはこれはと思って、そばにあった大きな木の切り株に、くもの糸を自分の足から、ひょいっとひっつけた。蜘蛛はそんなことはしらないものだから、その木の切り株へ蜘蛛の糸をひっかけては、ずうっと、谷底へ降りていく。そのうち、木の切り株を、きれいに、くもの糸で包んでしまった。そのとき、谷底のほうから

「よいしょう」という声がした。

 するとくもの糸でこの切り株を引っ張って、切り株をくるっと谷底へ転がり落としてしまった。それで、その男はびっくりして

「やれやれ、おれが蜘蛛に取られるところだった。俺の代わりに、切り株が転がり落て、俺は助かった」といって家へ飛んで帰ったそうだ。

 まぁ、あったことか、なかったことか、私は知らない。

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ねずみのお経

 

 昔、お侍が、山道を夏の暑い日にどんどん歩いていた。水を飲もうと思っても水はないし、汗をかきかき歩いていた。そしたら家が一軒あったので、のぞいてみるとおばあさんが一人いた。そのおばあさんに

「どうもすまんが水を飲ましてくれないか。のどが渇いてどうしようもない」

 まぁ、そこで水を飲ましてもらった。そしたら、

「だんなさん、腹が減ったろう」といって、団子を持ってきてくれた。

「こりゃぁ、うまい」といってお侍さんは団子を食べた。そうしたら、おばあさんがいうことには、

「私はこれからじいさんの法事をしたいと思っているのだが、寺まで遠いので、いくことができない。お前さんひとつお経をあげてくれないか」といってお侍に頼んだ。

 さぁ、お侍さんも困った。

「お経というものは、聞いたことはあるのだが、読んだことはまったくない。お経を読んでくれといわれてもなぁ」

「いいや、お侍さんなら、お経ぐらい知らないようなものはいない。まぁ、頼む」

 まぁ、仕方なしに、お侍は仏壇の前に座った。

「何を言えばいいんだろうか」とおもったが、まぁ口からでまかせで、

「だんごのにおいがぷんぷんします

 せんこうのけむりがふわぁりふわぁり

 ろうそくの火があかあかと」

といった。ところが、仏壇の中でねずみがちょろちょろぅっと出てきたので、

「なにやらひとつ、ちょろぅりちょろり」といったら、ねずみがちょろちょろっと逃げた。

 今度は違うねずみがちょろちょろっとでてきたので

「今度は違うのがでてきて、ちょろぅりちょろり」といったら、そのねずみがちょろちょろっと逃げた。

 今度は二匹のねずみが一緒に、ちょろちょろぅっと出てきたので

「今度はふたぁつ出てきて、ちょろぅりちょろり」といった。

 それから、ま、お侍は

「やぁれ、やれ、これでまぁ一安心」といっておばあさんのところから出て行った。

 それからおばあさんはそれを聞いていて覚えていて、まぁ今のくらいのお経なら自分でも読めると思って、毎晩仏壇の前に座って、

「だんごのにおいがぷんぷんします

 せんこうのけむりがふわぁりふわぁり

 ろうそくの火があかあかと」

「なにやらひとつ、ちょろぅりちょろり

 今度は違うのがでてきて、ちょろぅりちょろり

 今度はふたぁつ出てきて、ちょろぅりちょろり」といっていた。

 

 そうしたところが、ある晩泥棒が二人やってきた。一人が先へ行って、障子の破れから中をのぞいて、

「おぅ、ばあさんがひとりじゃぁないか。こりゃぁ、泥棒に入るのにはいい家だな」と思って、見ていたら、おばあさんが

「なにやらひとつ、ちょろぅりちょろり」といった。

「ばあさんが、おかしいことを言うぞ、お前、いってみろ」

 二人目の泥棒が行って、見ていたら、

「今度は違うのが来て、ちょろうりちょろり」と言った。

「ばあさんが、おかしいことを言うぞ。まぁ、お前ちょっときてみろよ」といって泥棒が二人で見ていたら、

「今度は、ふたぁつでてきて、ちょろぅりちょろり」といった。

 それで泥棒はびっくりした。

「こりゃぁ、ばあさん不思議な力を持っている。わしらが来たのがみんなわかっている」といって、何もとらないで逃げてしまった。

 昔から、一心にやれば、おばあさんのああいうお経でも、泥棒を退治する力を持っているということだ。

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瓜子姫

 

昔、昔、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。

おじいさんは、毎日、山へ薪(たきぎ)を取りに行き、おばあさんは、川へ洗濯に行きました。

ある日、おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から、大きな瓜が、ドンブラコッコ、スッコッコ、ドンブラコッコ、スッコッコと流れてきました。

 おばあさんが、それを拾って食べると、ずいぶんおいしかったので、

「もう一つ流れて来い。おじいさんに持って帰ってやる」というと、

 またドンブラコッコ、スッコッコと今度は大きな、大きな瓜が流れてきました。おばあさんはその瓜を、ウンショコラショ、ウンショコラショいいながら家へもって帰りました。

 おばあさんはその瓜を戸棚の中へ入れて、おじいさんが帰るのを待っていましたが、おじいさんがなかなか帰ってこないので、おもてへ出たり入ったりしていました。そのうちおじいさんが帰ってきたので、

「おじいさん、遅かったな。もう戻られるか、もう戻られるか思って待っていましたよ」

「おじいさん、今日は川で洗濯をしていたら、瓜が流れてきて、食べたらあんまりおいしかったので、『もう一つ流れて来い。おじいさんに持って帰ってやる』といったら、こんなに大きな瓜が流れてきましたよ。割って、一緒に食べましょう」

 おじいさんが包丁で割ろうとすると、瓜がぽっかり割れて、中からかわいい女の子が出てきました。おじいさんとおばあさんは大変喜んで、女の子に、瓜から生まれたので『瓜子姫』という名をつけました。

 おじいさんと、おばあさんは女の子を大事にかわいがって育てました。瓜子姫はどんどんどんどん大きくなって、それはそれきれいな女の子になりました。

 

 ある日瓜子姫が

「私はこれから布を織りたいので、おじいさんさい(布を織るときに使う『』)を作ってください。おばあさん糸をつむいでください」

 それからおじいさんはさいを作り、おばあさんは糸をつむいで、瓜子姫は布を織っていました。

「おじいさんさいがない。おばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン。おじいさんさいがない。おばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン。」といって布を織っていました。

 おじいさんとおばあさんが外に出るときにはいつも、

「天邪鬼という悪いやつが来るだろうが、来ても戸をあけちゃぁだめだよ」といって、よく言い聞かせて、外に出て、畑で仕事をしていました。

 やがて、瓜子姫は大きくなってお嫁に行くことになりました。

 

 ある日瓜子姫が

「おじいさんさいがない。おばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン。おじいさんさいがない。おばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン」といって、布を織っていると、天邪鬼がやってきて、戸をトントンとたたいて、

「お姫さん、お姫さん、ここの戸をすこぅしあけてください」といいました。

「いいや、いいや。おじいさんと、おばあさんがやかましくいっておられるから、開けられません」

「お姫さん、お姫さん。そんなことを言わないで、指が入るほど開けてください。しかられりゃぁ、私が侘びをいってあげます」

「それならまぁ、指が入るほどなら開けてあげよう」

といってほんのすこぅし、指が入るほど戸を開けました。

「お姫さん、お姫さん、よく見えないので、腕が入るほど開けてください。しかられりゃぁ、私が侘びをいってあげます」

「それならまぁ、腕が入るほどなら開けてあげよう」

といって、今度は腕が入るほど戸を開けました。

「お姫さん、お姫さん、よく見えないので、頭が入るほど開けてください。悪いことはしません。この戸を開けてください」

「それならまぁ、頭が入るほどなら、開けてあげよう」

といって、今度は頭が入るほど、戸を開けました。

頭が入るほど開けると、たいてい、体も入るので、瓜子姫が戸を頭が入るほど開けると、天邪鬼が、部屋の中に入ってきました。天邪鬼の言うことには、

「お姫さん、お姫さん、これから柿を取りにいこうじゃないか」

「いいや、いいや、ここから外に出ると、おじいさんやおばあさんに叱られるので、いやだ」

「いいや、いいや、なんでもない、なんでもない。今は、おじいさんもおばあさんもおられんし、家にまたもどりゃぁなんでもない」

 それで瓜子姫と天邪鬼は柿の木のある柿木谷へ行きました。天邪鬼は高い柿の木に登って、うまそうな柿を取っては食べ、取っては食べ、瓜子姫には一つもやりません。

「こりゃぁ、たぁね、たぁね、たぁねんだ」といって、柿の種を投げつけてきます。

「こりゃぁ、しゅぅり、しゅぅり、しゅぅたん」といって、しゅうぅたん(渋柿)を投げつけてきます。

「そんなに、種やら、しうぅたんばかり投げないで、おいしい柿を取ってくれ。私が、たべられないじゃないか。せっかくここまできたのに」

「そんなことを言うなら、お前が自分で、取ったらいいじゃないか」といって、天邪鬼は瓜子姫を柿木に登らせました。天邪鬼は

「そんなきれいな着物を着て登ると、着物が破れるじゃぁないか」といって、

自分の汚い着物を瓜子姫に着せ、自分は瓜子姫の着ていたきれいな着物を着て、

「もっと上、もっと上」といって、瓜子姫を柿木のてっぺんに登らせて、そこに瓜子姫を縄で縛り付けました。

 天邪鬼は瓜子姫のきれいな着物を着て、瓜子姫に化けて、家に帰って、

「おじいさんさいがない。おばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン」といって布を織っていました。

 それから、天邪鬼はきれいな着物を着せられて、かごに乗せられて嫁に行くことになりました。おじいさんとおばあさんが

「柿の木谷と栗の木谷があるが、どっちを通ろうか」といってかごやに言うと、

「柿の木谷は、柿の葉がすべって通られません。栗の木谷は、栗のいがが痛くて通られません。滑っても痛いよりはいい」とかごやがいいました。

「それじゃぁ、柿の木谷を通ることにしよう」

 大きな柿の木の下に来るとかごやが、

「まぁ、ここで一休みしようや」といいました。

柿の木の下で一休みしていると、とんびが空で、

「キーリスットン、バットントン。おじいさんさいがない。おばあさん糸がない。キーリスットン、バットントン。天邪鬼はかごで行く、瓜子姫はここにおる。熟柿で滑って転んで、しゅうり、しゅうたん、すってんてん」と鳴きました。

 それで、空を見上げると、大きな柿木のてっぺんに瓜子姫が縛り付けられています。かごの中を見るかごの中には天邪鬼がいます。

「こりゃぁ、天邪鬼が瓜子姫に化けている」ということになって、

天邪鬼は三つに切られて、そばと、きびと、かやの根元に埋められました。それで今でもそばと、きびと、かやの根は赤いんだそうです。

 瓜子姫は助けられてお嫁に行ったというお話です。悪いことをしちゃだめだよ。

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猿の一文銭

 

 昔、まぁ、あるところに大変栄えた家があった。そのうちのじいさんは、大変な金持ちで、おおらかで、人のいい人だった。川の向こうにももう一軒家があって、その家はあまり金持ちではなくて、そのうちのじいさんはよくないことばかり考える人だった。金持ちのうちでは、たくさん人を使って、牛や馬がたくさんいて、犬や猫や鶏もたくさんいた。金持ちのうちでは昔から猿の一文銭という宝物があって、その宝物があるので、だんだん金持ちになったのだそうだ。

 ところがある日、金持ちのうちで、親戚に葬式があったので、それで、家族がみんな出かけることになった。

「わたしゃぁ、親戚のうちで葬式があるので、行かなくてはならない。それで、みんな出かけるので、うちの留守番をしてくれないか」といって、川の向こうのじいさんに頼んだ。

「そりゃぁ、やってあげましょう」

そのじいさんは留守番をしている間に

「ここのうちじゃぁ、猿の一文銭という宝物があるそうだが、これをもってかえりゃぁ、うちも金持ちになるだろう」と、思って、客間の天井裏に下げてある猿の一文銭を盗んで、ポケットに入れた。その家のじいさんが戻ってくるのを待って、

「それでは、さようなら」といって、知らん顔をして自分の家に戻った。

 猿の一文銭が隣のうちへ移ったものだから、それからは金持ちでなかったほうがだんだん金持ちになり、金持ちだったほうの家は、だんだん金持ちでなくなった。人のいいじいさんは貧乏になったので、

「長い間、おってもらったんだが、まぁ、仕様がない。貧乏になったので、養うことができない。まぁ、これまでだと思って別れてくれ」といってたくさん使っていた人に暇を出した。牛や馬や犬や猫や鶏も全部手放してしまった。

ところが、家を出るときに猫が犬にいった。

「わたしらの親のときからここへ来て養ってもらって、わたしらはここで生まれて、ここで大きくしてもらった。今は、ここを離れなくちゃぁならなくなったのだが、これもじいさんのうちが貧乏になったので、しようがない。本当のことを言えば、ここのうちが貧乏になったのは、あの猿の一文銭が、なくなったからだからだ。この間、隣のじいさんが、留守番をしているときに、もって帰ったので、それで、あすこのうちはだんだん金持ちになった。使っている男の人や女の人もたくさんいるようになった。馬や牛や犬や猫や鶏もたくさんいるようになった」

「わたしらが長い間養ってもらった恩返しに、まぁ、何とかして、あの猿の一文銭をとりかえしてやろうじゃぁないか」

「そりゃぁ、そりゃぁ、いい考えだ。そりゃぁ、そうしよう」

「それにゃぁ、わたしに、いい考えがある」と犬が言った。

「お前、あすこのうちへ行って、玄関で、にゃんにゃん、言ってみろよ。そういえば、お前は猫だから、猫ならねずみをよく捕まえるから、玄関を開けてくれるだろう。玄関が開いたら、お前、ちょろっと入れ」

「入ったら屋根裏に上って、ねずみを捕まえて、猿の一文銭をぶら下げてある紐をくいちぎらせろ。お前は下で口をあけて待っていれば、一文銭が落ちてくるので、それをくわえておもてへでろ。そうすれば、わたしがお前を連れて逃げてやる」といった。

「そりゃぁ、そりゃぁ、いい考えだ。そりゃぁ、そうにしよう」と猫が言った。

 猫は泳げないので、犬の背中に乗せてもらって、川を渡った。

猫が玄関でにゃんにゃんいうと、そのうちのじいさんがいうことには

「まぁ、近頃はねずみがたいそう増えて、悪いことをして困る。米を食ったり、戸をかじったりするようになった。猫を中に入れて、ねずみをとらしてやれ」といって玄関を開けた。

 猫は玄関から中へ、ちょろっと入って、はしごを上って、屋根裏へあがって、ねずみを捕まえた。ねずみを捕まえて、猫がいうことには、

「あすこに、あれが、猿の一文銭がぶらさがっているが、あの一文銭をぶら下げてある、あの紐を、根元から、お前かみきってくれないか。おれは下で口を開けているから、お前が紐を食いちぎると、猿の一文銭がおれの口の中へ落ちてくる」といった。

ところがねずみのいうことには、

「いや、いや、わたしはそんなことはせん。お前さんは、これまで、わたしの親も兄弟もわたしの子も、みんな食い殺して、お前さんが自分のえさにしている。それだから、かたきのお前さんのいうことを聞くなんていうことは、そういうことはとてもできない」

「そりゃぁ、今まで、おれのやったことは悪かった。これからは、お前の子供やら兄弟だけは、かみついたりせん。とにかく一生のお願いだから、一文銭をつるしてある紐を噛み切ってくれないか」

ねずみのいうことには、

「まぁ、そういうことなら、そうしてあげよう」といって、ねずみは猿の一文銭をぶらさげてある紐を食いちぎった。猫は下で、落ちてきた一文銭を口にくわえて外に出た。外では犬が待っているので、一緒に逃げた。

 それから犬の背中に乗って川を渡ることになった。川を渡るときに犬がいうことには、

「大切な宝物だから、おとしちゃぁだめだぞ。おとしちゃぁだめだぞ」

 川の真ん中の一番深いところまできたときに、また犬がいうことには

「大切な宝物だから、おとしちゃぁだめだぞ。おとしちゃぁだめだぞ」

 落とすな、落とすなとあんまり犬がいうものだから、猫がはらを立てて、うなるような声で

「やかましい。おとしはせん」というた。

大きな口をあけたものだから、情けないことに、一文銭が川のそこのほうへ落ちた。

「やぁ、しまった。猿の一文銭を川のそこへ落としてしまった」と猫が言ったところが、犬のいうことにゃ、

「見ろよ。そのことを心配してわたしが、何度もいったのだがなぁ」

「こりゃぁ、なんとか拾わなくてはならないのだが、まてまて、おれが、とんびを捕まえよう。とんびにおれの言うことを聞かせよう」と犬が言った。

そこで犬がとんびを捕まえていうことには

「実は、あそこに、川のそこに、猿の一文銭を落としたのだが、お前、あれを拾ってくれないか」

とんびのいうことには、

「わたしは、あなたの言うことには従わなくちゃぁ、ならないのだが、わたしは空を飛ぶ鳥だから、とても川の中の仕事は、ようできない。わたしを逃がしてくれりゃぁ、わたしが鵜の鳥を捕まえてあげよう。鵜の鳥は川にいるのだから、あれなら拾ってくれるだろう」といった。そこで、犬はとんびを放した。

 とんびが鵜の鳥を捕まえていうことには

「あすこに、川のそこに、猿の一文銭が落ちているんだが、あれをお前拾ってくれないか」

 そこで鵜の鳥のいうことにゃ

「そりゃぁ、わたしはいつも川にいるんだから、川の上のことはしてあげるが、川のそこのことは、わたしにはとてもできない。わたしを逃がしてくれるなら、わたしが鮎を捕まえてあげよう。鮎は川のそこにおるものだから、あれなら拾ってくれるだろう」といった。

 そこでとんびは鵜の鳥を放した。

 鵜の鳥はすぐに川へもぐって、鮎を捕まえた。鵜の鳥のいうことにゃ、

「あすこに、川のそこに猿の一文銭が落ちている。お前あれを拾ってくれないか」

鮎がいうことには

「あなたはいつもわたしの仲間を捕まえては、食べてしまう。わたしの親や兄弟や親戚もみんなあなたがやってしまった。あなたのいうことを聞くなんていうことは、とてもできん」

 鵜の鳥のいうことには、

「そりゃぁ、今までおれのやったことは悪かった。これからはお前の子供や兄弟だけは、捕まえないことにする。だから、おれの言うことをきいてくれ」

 鮎がいうことには、

「これからは、とらないということなら、今度だけはあなたの言うことを聞いてあげよう」

 鮎は川のそこから猿の一文銭を拾うて、鵜の鳥へ渡した。鵜の鳥はそれをとんびに渡した。とんびはそれを犬に渡した。犬はそれを猫に渡して、猫は口にくわえた。犬は猫に

「今度はしっかりくわえていろよ。落とさんようにしろよ」といって、猫を背中に乗せて川を渡った。

 そして、猿の一文銭をもとのうちの客間の屋根裏に戻した。それからは人のいいじいさんのうちはだんだん金持ちになり、人のよくないじいさんのうちはだんだん貧乏になった。

 それで、このごろ、この辺で歌われている歌の言葉に

『空飛ぶとんびに、猫ねずみ

 川じゃ鵜の鳥、鮎の魚』

というのがあるが、この歌の言葉の中に、犬の名前が入っていない。犬がいうことには、

「わたしも、猿の一文銭を取り返して、ここのうちがまた金持ちになるように、がんばったのだが、歌の言葉に猫は入っているのだが、私の名前がはいっていない」といって腹をたてた。

 最近では、犬は腹が立つので、猫をいじめる。猫を見るとすぐに追いかけるということになっているのだそうだ。

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花咲じいさん

 

 おじいさんとおばあさんが一匹の犬をかわいがって大きくしていました。そしたらその犬がある日のこと、畑の隅へ行って、

「ここ掘れワンワン、ここ掘れワンワン」

といって鳴くので、おじいさんとおばあさんがなんとも不思議なことだと思って、その畑の隅を鍬で掘ってみると、たくさんの金や宝物がいっぱいでてきました。

おじいさんとおばあさんは

「まぁ、これは、これは」

といって喜びました。

 それから、おじいさんとおばあさんは喜んで犬をかわいがっていましたら、隣の欲張りじいさんがそれを聞いて、

「まぁ、そんなよい犬がおるなら、うちにも貸してくれ、貸してくれ」

といって犬を借りて帰っていきました。犬を畑の隅へ連れて行って、鳴きもしないのに、無理やりワンワン言わせました。それで、そこを掘ってみたら、お金も何もでてこないで、泥やら、石やら汚いものばかり出てきました。それでじいさんが怒って、その犬を殺してしまいました。隣のおじいさんが

「なぁ、犬を返してくれ」

といったら

「うちでは、さっぱりお金もなにもでないので、腹が立つので、犬は殺してしまった」

「まぁ、かわいそうなことをしてくれた。その犬を、その殺した犬を返してくれ」

 それから、その犬を返してもらって、墓を作って、丁寧に葬って、墓の上へ一本の木を植えました。その木がどんどんどんどん大きくなったので、その木で臼を作りました。臼を作って、もちをついたところが、もちをつくたびに、またお金や宝物が出てきました。

おじいさんとおばあさんは

「まぁ、これは、これは」

といって喜びました。

 隣りの欲張りじいさんそれを聞いて

「まぁ、そんなよい臼があるなら、うちにも貸してくれ、貸してくれ」

といって、臼を借りて帰っていきました。それから、その臼で、もちをつきましたが、お金も何も出ないで、土やごみや、汚いものばかり出るので、またおじいさんは腹を立てて、その臼を焼いてしまいました。隣のおじいさんが

「なぁ、臼を返してくれ」

といったら、

「うちでは、さっぱりお金も何も出ないので、腹が立つので、臼は焼いてしまった」

「それなら、まぁ、灰ぐらいはあるだろう」

といって、灰をもらって帰りました。

 それから、その灰を、家の枯れ木にまいたら、きれいな花が咲みました。それで、おじいさんは、とても喜んで、ある日、お殿様がお通りになるときに

「こりゃぁ、日本一の花咲じいさんだ」といって、大きな声を出して、枯れ木に登っていました。それをお殿様が聞いて、

「それはいいことだ。花を咲かして見なさい」

それで、灰を枯れ木にばら撒いたら、まぁ、きれいな花が見事に咲きました。そしたら、お殿様が喜んで

「おぉ、これはすばらしい花咲じいさんだ」

ということになって、おじいさんは大変な褒美をもらいました。

 隣りの欲張りじいさんそれを聞いて

「まぁ、そんなよい灰があるなら、うちにも貸してくれ、貸してくれ」

といって、灰を借りて帰っていきました。今度お殿様がお通りになるときに、

「こりゃぁ、日本一の花咲じじいだ」

といって、まぁ、大きな声を出して、枯れ木に登っていました。それをお殿様が聞いて、

「それはいいことだ。花を咲かして見なさい」

それで、欲張りじいさんが、灰を枯れ木にばら撒いたら、花はまったく、咲かないで、灰が、殿様の目やら、鼻やら耳に入りました。お殿様はたいそう怒って、それから、欲張りじいさんは首を切られて死んでしまいました。悪いことをしてはだめだよ。

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狐屋敷

 

 昔は、ここらにいっぱい狐がいた。この近くに狐屋敷というのがあるのだが、この話があったころには狐屋敷とは言わなかった。そのちいさな家には、男が、嫁さんも持たないで、一人で住んでいた。

 年の暮れになっても誰も来る人はいないし、町へ行って、酒を一杯飲んでこようと思って出かけた。ところが日が暮れて、帰り始めて、途中、川に沿って、ずうっと歩いて帰っていたら、行くときには何もなかったはずなのに、道の真ん中に大きな岩が転がっていた。こんなところに岩はなかったはずだが、と思って、その岩を踏んだら、そしたら、その岩がころっと転がって、逃げてしまった。ありゃぁ、これは狐がからかい始めたぞと思った。

 その岩が逃げてから、また、道を歩いていたら、木の切り株が道にあった。その切り株につまずいて、なさけないことに、両手をついた。魚を二匹ほど買って、両方の手に握って、歩いていたのだが、家に帰ってみると魚の代わりに、大根を二本ほど握っていた。手を着いたときに、狐に魚と大根を握り替えさせられた。狐がからかっているのは、わかっていたのだが、家に帰るまでは、よくわからないでいた。家に帰って初めて、しっかりとわかった。

「おのれ、だましたな。狐をとってやろう」

ということになった。

 それから、といが谷、あなが谷、ちゃちゃが谷のこの三つの谷へわなをかけた。罠をかけるのには、ねずみの油揚げを作って、それをえさにして、罠をかけると、一番よく狐がかかる。ねずみの油揚げを作って、わなを三箇所にかけておいた。

 そしたら、夕方になって、男がひょっこり、一人でやってきた。

「役場から、わたしは来たのだが、それだが、明日の朝には、あなたは役場に来てもらいたい」

といった。

「どうしてだろうか」

「わたしもよくは知らないのだが、お前さん、狐を取るのにわなをかけたろう。おおかた、そのことだと思う」

「役場から呼ばれたのは困ったことだ」

「そりゃぁ、私がうまい具合に話をしてあげれば、なんとか許してもらえる。そのためには、わなを役場に持っていったほうがいい。えさのほうはわなからはずして、そのまま、そこらに投げておきなさい。わなだけもっていけば、私がなんとか頼んであげる」

 それから、昔は、お使いに来た人にはお土産を渡していたので、その男にタオルをあげた。

「それでは、今夜すぐに、わなをはずさなくちゃぁだめだ」

というものだから

「それじゃぁ、はずそう」

といった。

 それから、使いの男は役場へ帰っていった。男が来たのが夕暮れで、まだ早かったのだが、いろいろ話をしているうちに、日が暮れて、男がわなをはずしに出かけたときには、真夜中になっていた。ところがあなが谷とちゃちゃが谷のは正直に行って、わなをはずして、えさはそこへ投げておいた。まぁ、そこまではよかったのだが、といが谷というのが一番遠いし、夜が明けそうになったし、疲れたし、少しばかり寝て、朝早くはずしさえすればなんでもないだろうと思って、男は家へ帰って寝た。

 家へ帰って寝たところが寝過ごしてしまった。それから、といが谷へわなをはずしに行った。行ってみると、狐がタオルを首に巻いてわなにかかっていた。あなが谷とちゃちゃが谷では、えさがわなからはずしてあったものだから、狐はえさをみんなもらって食べた。ところが、といが谷でも、えさがはずしてあると思ったのだが、はずしてなかったものだから、それで、狐はわなにかかってしまった。

 男は狐を取って食べた。そのときから男の家を狐屋敷というようになったということだ。

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舌きりすずめ

 

 昔、あるところに、おじいさんとおばあさんがおった。おじいさんは山へ薪を取りに行き、おばあさんはおうちで、仕事をしていた。おじいさんが山から帰ろうと思ったら、道端ですずめが、ちゅんちゅん、ないていた。それで、

「おうおう、お前はけがをしたんか。よしよし、そしたらわたしがつれて帰って、怪我を治してやろう」といって、

 手のひらへ乗せて、つれて帰った。薬をつけて、足に包帯をして、毎日それをつけかえていた。そしたらだんだんよくなって、ちょこちょこちょこちょこいたずらをするようになった。

 ある日、おばあさんが、おじいさんの留守に、障子を張ろうと思ってのりを作った。それをすずめが、

「あぁ、こりゃぁ、おいしそうだ」といって、のりをみんななめてしまった。

 おばあさんが、すずめに

「お前、食べたろう」といったら、

「わたしゃ、食べません。多分となりの猫だろう」といった。

それで、隣の猫に聞いたところが、

「わたしゃ、食べません」という。

猫の口の周りには糊はついていないし、すずめの口の周りには、のりがいっぱいついているので、

「隣のねこじゃあない。お前がなめたろう。あんなことをしてくれたら、わたしゃ、大変困る。まぁ、せっかく、かわいがっていたすずめが悪いことをしてくれた。お前の舌をきってやる」といって、はさみで舌を切って、

「お前のようなものは、家にはおかれん」といって追い出してしまった。

 おじいさんが帰ってきて、

「すずめはどうしたんか」と聞いたら、

「私が障子を張ろうと思って、せっかくのりをたいたのに、みんな食べてしまった。それで、舌を切って追い出した」といった。

「まぁ、それは、かわいそうなことをした。それじゃぁ、探しにいってくる」

 途中で、牛を洗っていた人がいたので、

「牛洗いさん、牛洗いさん。ここを舌切り雀が通らなかったか」と聞いたら

「あぁ、通った、通った。そりゃぁ、通った。この牛を洗った汁を一杯飲めば、教えてあげるが」

それで、おじいさんが

「そりゃぁ、飲む、飲む。教えてくれ」といって、一杯飲んだ。

 牛洗いのいうことには、

「馬洗いさんが、そこにおるから、行って聞いて見なさい」ということで、しばらく行ったら、馬洗いさんがおった。馬洗いさんに

「馬洗いさん、馬洗いさん。ここを舌切り雀が通らなかったか」と聞いたら

「あぁ、通った、通った。そりゃぁ、通った。この馬を洗った汁を一杯飲めば、教えてあげるが」

 それで、おじいさんが

「そりゃぁ、飲む、飲む。教えてくれ」といって、正直に一杯飲んだ。

 馬洗いのいうことには、

「このすこし先の竹やぶにいってみなさい。そこにおるよ」

 行ってみると、すずめが竹に止まっていて、

「まぁ、おじいさん、おじいさんよく来てくださった。わたくしを長い間、よくかわいがってくださった」といって、喜んで、喜んで、それから、ご馳走を食べさせたり、歌を歌ったり、踊りを踊ったりして、いろいろもてなしをした。それから、おじいさんが

「そろそろ、かえらないとなぁ、おばあさんが家でまっているから」といったら

「あの、ここに箱が重い箱と軽い箱と、箱が二つあるので、どちらでもいいので、もってかえりなさい」といった。

「いや、わたしは、軽いほうがいい」といって、おじいさんは軽いほうの箱をもって家へかえった。

 家に帰って、箱を開けてみたら、まぁいろいろ宝物が入っていた。

 おばあさんが

「まぁ、それじゃぁ自分もいってみる」

 そのあくる日、おばあさんが出かけた。おばあさんは牛の汁も、馬の汁も飲みません。竹やぶに行ったら、舌切り雀が、

「まぁ、おばあさんよく来てくださった」といって、

ご馳走を食べさせたり、歌を歌ったり、踊りを踊ったりして、いろいろもてなしをした。

 それから、おばあさんが

「そろそろ、かえらないとなぁ、おじいさんが家でまっているので」といったら

「あの、ここに箱が重い箱と軽い箱と、箱が二つあるので、どちらでもいいので、もってかえりなさい」といった。

 おばあさんは

「そりゃぁ、わたしは年寄りだが、年寄りでも、わたしは力が強いので、大きいほうをくれ」といった。

「やれ、重い。やれ、重い」といって、大きいほうの箱を喜んで持って帰った。

 あんまり重いので、どんなにいっぱい宝物が入っているのかと思って、途中で、箱を開けてみると、中から蛇やら、蛙やら、むかでやら、化け物やらいっぱいでてきた。おばあさんは、びっくりして、おじいさんのところへ走って帰った。

 やっぱり日ごろ悪いことをしていると、罰が当たる。日ごろからなんでもかわいがって、正直に暮らさなくてはだめだということだ。

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団子待て

 

 昔々、おじいさんが山へ薪を取りに行った。昼飯に団子を食べようとしたら、団子がころころころころと転がっていった。団子はころころ転がって穴の中へ入っていった。

「団子待て、団子待て」といって、おじいさんも穴の中へ入っていった。

 おじいさんが、どんどん穴の中へ入っていくと、穴の奥のほうで、ねずみがたくさんもちをついていた。

「猫がいないうちに、餅ついてぺったん、ぺったん」

「猫さえいなきゃぁ、この世は、ねずみのものだ。えっさぁ、もっさぁ、ぺったん、ぺったん」

といって、餅をついていた。

そこでおじいさんは「にゃおぉん、にゃおぉん」といって猫の泣き声をだした。

 そしたら、ねずみは驚いて、餅も何もかもみんな置いて、逃げてしまった。おじいさんは、その餅を全部もらって、もって帰った。

 おばあさんと一緒に食べようと思ったが、とても食べきれない。そこで隣のおじいさんとおばあさんを呼んで一緒に食べることにした。

 隣のおじいさんが

「この餅はどうやって作ったのか」と聞いたら、

「いや、うちのじいさんが、山へ行ったら、ねずみが餅をついていたんで、猫の鳴き声をだして『にゃおぉん、にゃおぉん』といったら、ねずみは餅をおいて逃げいってしまった」

 それから隣の欲張りばあさんが意地悪じいさんに、

「お前さんもいってみなさいや。餅をもらってもどりなさいや。それを一緒にたべようじゃないか」といった。

 隣の意地悪じいさんは欲張りばあさんに、だんごをたくさん作ってもらって、山へ薪を取りに行った。団子をわざと転がすと、団子はころころころころ転がって、穴の中へ入っていった。

「団子待て、団子待て、おれもついていく」といっておじいさんも穴の中へ入っていった。

おじいさんがどんどんどんどん穴の中へ入っていくと、穴の奥のほうで、ねずみがたくさん

「猫がいないうちに、餅ついてぺったん、ぺったん」

「猫さえいなきゃぁ、この世は、ねずみのものだ。えっさぁ、もっさぁ、ぺったん、ぺったん」といって餅をついていた。

「ははぁ、これだな。これはいいことだ。よしよし、ここでいってやろう」と思って、おじいさんが、

「にゃおん、にゃおん」いって猫の鳴き声をだした。

ところがねずみは

「きのう、おれたちをだました、あのじいさんだな。またきやがった。こいつはなんとかしなくちゃならん。また餅をよこどりされるぞ」

 といって、みんなで、おじいさんのまわりに集まって欲張りじいさんに噛み付いて、食い殺してしまった。おわり。

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法事の使い

 

 ある家にお母さんと息子が暮らしていた。お母さんが息子に

「今日は、お父さんがなくなった日だから、お父さんの法事をするので、和尚さんを迎えにいって来なさい。和尚さんは、上に黒いものを着て、下には白いものを着ておられるからな」

「はい」と言って、迎えにいった。

 和尚さんを迎えに行っていると、つばめが電線に止まっていたので、

「和尚さん、和尚さん、今日はお父さんのなくなった日なので、法事に来てください」といった。するとつばめが

「極楽じゃ、もちを食った。こっちじゃぁ、土をくった。土を食ったら、口が苦い」といった。つばめは極楽ではもちを食ったかもしれないが、こっちでは土を食っては巣を作る。

それから、つばめに逃げられてまたどんどん歩いていったら、からすがいた。

「和尚さん、和尚さん、今日はお父さんのなくなった日なので、法事に来てください」といった。

「コカァ、コカア」

「子じゃぁありません。子じゃぁありません。お父さんです」

それから、からすに逃げられて、家に戻った。

「和尚さんはどうだった」

「『コカア、コカア』言ったので、『子じゃぁありません。お父さんです』と言ったら逃げた。

「まぁ、お前は、ばかたれだ。どうしようもない。それはからすじゃぁないか」

「それじゃぁ、もう一度いってきなさい」

 それから、また行ったところが、よその小屋に、黒い山羊がいた。

「和尚さん、和尚さん、お父さんのなくなった日なので、法事に来てください」

「めえぇ、めえぇ」

「めん(雌)じゃぁありません。おん(雄)でございます。おとうさんですから」

「どうぞ、来てください」

と、またいったら、またしても

「めえぇ、めえぇ」

というので、

「めんじゃぁない。おんだ」と言って、腹を立てた。

それで、こんど家に帰ってそういうと、お母さんが

「そりゃぁ、お前、和尚さんじゃぁない。山羊だ。そんなことを言うようじゃぁ、どうしようもない」

お母さんは腹を立てて

「こんどは、私が迎えに行って来る。お前は、ご飯を炊いているので、その番をしていなさい」

それからお母さんが和尚さんを迎えにいて戻ってきた。

「ご飯は炊けたか」

「ご飯をたいていたら、ブツブツブツブツ言うので、『ブツブツじゃない。法事だ』と言ったら、いくら言っても、ブツブツ言うので、ふたを取って、灰をぶち込んだ」

「まぁ、どうしようもないやつだ。それじゃぁ、ご飯にならないだろうが」

 お母さんは

「それじゃぁ、甘酒などだして、和尚さんにご馳走しよう」と言って、屋根裏へあがった。昔は内緒で屋根裏で、かめで、甘酒を造っていた。屋根裏は暖かくて甘酒がよくできるし、隠しておくのにも都合がよかった。

「この甘酒を下ろすんで、このかめの尻をしっかりつかまえておけよ。いいか」

「ああ、よしよし」

それから、甘酒の入ったかめを、縄で縛って、降ろしていった。それから大体このくらいでいいだろうというところで、

「お前、手が届いたか」

「ああ、届いた、届いた」

「それなら、尻をしっかり持っておれよ。いいか」

「ああ、よしよし」

「いいか」「よし」でかめを降ろしたら、かめが下の床に落ちて壊れた。

「どうして、おまえ、尻をかかえなかったのか」

 息子は、かめの尻を抱えないで自分の尻を一生懸命抱えていた。上で縄を緩めてしまったものだから、かめは床に落ちて壊れた。甘酒はこぼれて飲まれん。

和尚さんに出すご馳走がないものだから、風呂でも沸かして入ってもらおうと思って、風呂を沸かした。

和尚さんが風呂に入っていると、息子が

「炊くものがない」といった。

和尚さんが

「何でもいいから、そこにあるものを焚きなさいや」というと

息子は和尚さんの着物やら、袈裟やら、パンツまで全部焚いて、風呂を沸かした。和尚さんが風呂から出て、着物を着ようと思っても、着るものがない。仕方がないから、和尚さんはふきの葉で、前を隠して、法事も何もしないで、走って寺に帰りなさった。終わり。

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屁ひりじいさん

 

昔々、正直なおじいさんがいて、おじいさんは毎日毎日、山へきこりに行って、町で薪を売って暮らしていた。あるときお殿様が、お通りになって、

「私の山で、木を切るのは、だれだ」

「だれだじゃぁない。日本一の屁ひりじじいだ」

「それなら、山から下りて屁をひってみろ」

「ここでは尻にとげが刺さってひられません」

「それなら板の上でひってみろ」

「板の上は冷たくてひられません」

「それなら畳の上でひってみろ」

「畳の上はつるつるして、すべってひられません」

「それならいったい何の上でならひられるか」

「毛氈の上でならひられます」

そこで、毛氈の上で

「黄金ざらざら、錦ざらざら、金の杯、五葉の松原、すっぽろぽんのぽん」

 といって、屁をひった。それを言い、言い、屁をひった。

あんまり見事に屁をひったので、お殿様から褒美をいっぱいもらった。

 それを聞いた隣の欲張りじいさんが

「俺も褒美をたくさんもらおう」といって、

お殿様のいらっしゃるのを待って、山へ木を切りにいった。そこへお殿様が通りかかって、

「私の山で、木を切るのは、だれだ」

「だれだじゃぁない。日本一の屁たれじじいだ」

「それなら、山から下りて屁をひってみろ」

「ここでは尻にとげが刺さってひられません」

「それなら板の上でひってみろ」

「板の上は冷たくてひられません」

「それなら畳の上でひってみろ」

「畳の上はつるつるして、すべってひられません」

「それならいったい何の上でならひられるか」

「毛氈の上でならひられます」

そこで、毛氈の上で

「黄金ざらざら、錦ざらざら、金の杯、五葉の松原、すっぽろぽんのぽん」

 といって、屁をひった。それを言い、言い、屁をひった。

ところがあんまり力を入れたものだから、くさい屁ばかりポンポカ、ポンポカ出た。そしたらお殿様が怒ってなぁ、欲張りじいさんは尻を切られて死んでしまった。そこが茅の原だったものだから、いまでも茅の根が赤いということだ。まぁ、あんまり欲張りしてはだめだなぁ。

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へひり嫁

 

 昔、お嫁さんがいたんだが、それはそれは、屁たれ、屁たれ、屁をよくひるので、

「まぁ、お前はなぁ、嫁さんに行くのだが、あんまり屁をひるなよ」

「はい、はい」といって、嫁に行ったのだが、それがへがひりたくて、ひりたくて、我慢していたのだが、顔色がだんだん悪くなって、青くなってきた。

「まぁ、お前は嫁に来たころは、顔色もいい子だったのだが、ひどく青白くなって、どこが悪いのか、一つ言ってみなさい」

「わたしは、どこも悪いところはありません。ただ、屁がひりたいだけです」

「そんなに、屁がひりたいくらいのことは、遠慮をしないで、ひってみなさい」

「それじゃぁ、ひります」

 やっ、ひるとも、ひるとも。おばあさんを吹き飛ばしてな。屁をひると、おばあさんがぽおんと飛ぶ、それから、今度尻をすぼめると、おばあさんが、さっとひっつく、屁をひると、またおばあさんがぽおんと飛ぶ。

「こんなに屁をひってもらっては、お前、ここにおってもらわれん。お前帰ってくれ」

 お嫁さんは

「はい、はい」

 といって、それから、帰り始めたが、ある峠の上に、大きな梨の木があって、梨がいっぱいなっているその木の下で

「私は、こりゃぁ、戻された」といって泣いていたら、そこへ旅をする人が通りかかって

「あなた、どうして泣いているのか」

「いや、私はなぁ、あんまり屁をひどくひるものだけぇ、それで戻されました」

「どんなに屁をひるのか」

「はい、ここへ梨のみがあんなにいっぱいなっていますが、わたしは、わたしの屁であの梨をみんな落として見せます」

「まぁ、それなら一つひってみなさい」といったところが、

尻を空に向けて、梨の木に向けて、屁をひったら、その梨がみなぼたぼた下へ落ちてしまった。それで、その旅の人が大変感心して

「お前さん、お前さんは大変な屁ひり名人だ。殿様のところへいって、屁をひってみなさい。そうすりゃぁ、褒美がもらえる」

 それから、その旅の人が殿様のところへ行ってなにやら言った。それで、嫁さんは殿様の前で屁をひることになった。嫁さんが

「まぁ、お殿様、あなたを屁で飛ばすことぐらい、私は分けなくできますが、お殿様を屁で飛ばしては大変申し訳ありません。それで我慢していますが、一つあなたの家来をとばさせてください」といった。

「それなら、私の家来でも何でも飛ばして見なさい」

それで、嫁さんは、家来をみんな屁で飛ばしてしまった。

「これは、大変な屁ひり名人だ」ということになって、ものすごい褒美をもらって帰ったということです。おしまい。

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かちかち山

 

 昔あるところにおじいさんとばおあさんがいました。

狸がナスやきゅうりを食うので、おじいさんがわなをかけに山へ行きました。そこへ狸が出てきて、おじいさんを化かしてやろうと思ったところが、

「お前は、悪いことばっかりして、お前ににゃだまされんぞ」といっておじいさんが狸を蹴っ飛ばしたら狸がひっくり返って死んだまねをした。

 おじいさんが蹴飛ばしても、蹴飛ばしても、狸が死んだまねをしているので、狸を縛って連れて戻って、囲炉裏の上に吊り下げておいた。

 夕方になったら狸を、狸汁にして食べようということで、おじいさんは外へ畑を耕しに行った。おばあさんは狸汁を作るということで、家でもちをついていた。おばあさんが一人でもちをついていると、狸が

「おばあさん、おばあさん、餅つきは大変でしょう。気の毒なので手伝ってあげよう」

「それでも、お前の縄を解いてやると、お前が逃げるので。そんなことはせん」

「いや、あの、わたしの縄を解いて、ここから降ろしてくれれば、これからは、悪いことはしませんので縄を解いてください。縄を解いてもらえれば、気の毒なので手伝ってあげましょう」

 それから、縄をほどいて、許してやったら、もちをつく振りをして、おばあさんの頭を搗いた。おばあさんをうすに入れて、おばあさんを搗き殺してしまった。それから、おじいさんが家に戻ったときには、狸がおばあさんに化けていて、殺したおばあさんの肉をなべで煮ていた。それで、おばあさんに化けた狸が

「おじいさんご苦労でした。よう帰りなさった。これ、おいしい汁を煮たので、あなたが捕って戻った狸の汁を煮たので、たべなさいや」

それでおじいさんが

「これはおいしい狸汁だ。うまいなぁ」といって汁を吸った。

今度おばあさんに化けた狸が

「おじいさん、うまいことごまかされたな。それは、お前のところのおばあさんをたたき殺して、煮たのだ」

 それからおじいさんが怒って、狸を追いかけたが、狸は山へ飛んで逃げた。

「まぁ、せっかく捕まえて、狸汁にしようと思っていたのに、おばあさんもやられて、もうどうにもならない」といって、畑に行って、嘆いていたら、今度はウサギが出てきて

「おじいさんどうしたのか」

「いや、狸のやつが、いつも、畑のいたずらをして困るので、捕まえて、狸汁にして食べようと思ったのだが、うそを言って、おばあさんをだまして、殺して逃げてしまった」

それでウサギが

「それじゃぁ、今度はわたしがやっつけてやろう」

それで

「豆をたくさんいってくれ」といった。

 ウサギが畑で豆をバリバリ食べていたら、狸が出てきて

「その豆をくれないか」

「わたしの言うことを聞けばやる」

「うん、聞く、聞く。聞くからその豆をくれ」

「今から、薪を取りに行くので、この背負子をせおってくれりゃぁ、やる」

「それなら、負うてあげるから、その豆をくれ」

それから、一緒に薪を取りに行って、狸にたくさん薪を背負わせて、ウサギも背負って、一緒に帰り始めた。ウサギが後ろで、火打石でカッチ、カッチやっていたら、狸が

「カチカチいうのはどうしてか」

ウサギが

「かちかち山のカチカチ鳥だ」といった。

そして、ウサギが火打石で火をおこして、狸の背中の薪に火をつけたら、ボーボー燃え出した。

「ボーボーいうのはどうしてか」

「ボーボー山のボーボー鳥だ」とウサギが言った。

 それから、そのうち背中が火事になって、狸が

「熱い、熱い」言い出したので

 ウサギは唐辛子を練って、薬だといって、狸の背中に塗ってやった。ところがやけどに唐辛子を塗ったものだから

「熱い、熱い」といって、狸はそばの川に飛び込んで

「助けてくれ、助けてくれ」といった。

 ウサギは、自分は木で作った舟に乗って、狸は泥で作った舟に乗せた。狸の船は泥で作った舟だから泥がどんどん溶けて、舟が沈みだした。

「今からは、絶対に悪いことはしません。助けてくれ、助けてくれ」

 と狸が言ったのだが、ウサギはかいで狸をたたき殺して、じいさんと狸汁にして食べた。というお話だ。

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とっつくひっつく

 

 ある心がけのいいおじいさんが毎日毎日、山へ薪を採りに行っていました。

 あるときいつものように山へ行って薪を取っていると

「とっつこうか、ひっつこうか」といって山がうなった。あんまりうるさいので

「とっつけばとっつけ、ひっつけばひっつけ」といって、腹を立てて怒鳴りました。

 そしたら、どこからともなく、『むかご』がよってきて、体中にいっぱい引っ付きました。やあ、ひっつく、ひっつく、どうにもならないほど、むかごがいっぱい体に引っ付いて、むかごだらけになりました。それから、しかたなしに自分の家へ帰って

「おばあさんや、山へ行ったらなぁ、『とっつこうか、ひっつこうか』といって山がうなった。あんまりうるさいので『とっつけばとっつけ、ひっつけばひっつけ』といって、腹を立てて怒鳴ったら、こんないたくさんむかごがひっついたよ」

「まぁ、それはいいことじゃぁないか。一緒にむかごをとりましょう」といって、むかごをむしりとったら、たくさんのむかごが取れて、

「むかご飯にしようじゃぁないか」といってむかご飯を炊いた。

「こりゃぁ、わたしらが食べたばっかりじゃぁ、食べきれないから、隣のおじいさんやおばあさんもよびましょうや」

 隣のおじいさんやおばあさんは悪いおじいさんやおばあさんなのですが、一緒に、たくさんむかご飯を食べさせてもらいました。隣のおばあさんがおじいさんにいうことには

「お前も行ってみなさい。お前も山へ行って、『とっつけばとっつけ、ひっつけばひっつけ』といってみなさい。そういえば、むかごがいっぱいひっつくから、一緒にむかご飯を炊いてたべようや」

「それはいいことだ。そうすることにしよう」といって隣のおじいさんが早速山へ飛んでいきました。

そしたら、どこからともなく

「とっつこうか、ひっつこうか」といって山がうなりました。

「あぁ、これだな、ようし、ようし」と思って、そのおじいさんが

「とっつけばとっつけ、ひっつけばひっつけ」といって、できるだけ大きな声で叫びました。

 ところが今度は、体中に引っ付いたのは、まつやにやら、すぎやにばっかりで、どうにもこうにもしようがありません。おじいさんが

「うんうん」うなっていますと、旅の人が通りかかって、

「おじいさんどこか具合がわるいのか」といったら

「具合が悪いなんてものじゃぁない。わたしの体を見てくれ。松やにやら、杉やにだらけで、手も足も動かされないのだ」

「これは、これは、困ったことだな。この松やにやら、杉やにをとるにはな、おじいさんや、家へ帰って、どんどん火をたいてあぶってみなさい」

 そこで、やっとのことでおじいさんが家へ帰って、どんどん火をたいて、あぶったいましたが、おじいさんの体中にくっついている松やにやら杉やにに、火が燃え移って、おじいさんはとうとう焼け死んでしまいました。

 人の真似をして欲張るものじゃぁないということです。

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狐に化かされた話

 

ある日のこと、男が隣の町から帰っていたら、日が暮れて、これはまた、狐に化かされなければいいがと思いながら、山道を帰っていた。ところが向こうからおじいさんが親切そうに

「あなたどこへ行きなさったのか。まぁ、早く帰りなさいよ。この辺には狐がおるよ」

「はいはい、早くかえりましょう」

 それで、どんどん歩いて帰っていった。いくら行っても、行っても、なかなか帰れない。

「どうしてだろうかなぁ、うちはもう、とっくに帰り着いているはずだが。どうしてだろう。なかなかうちに帰られない」

 そうしたら、さっきのおじいさんがまた親切そうに

「あなた、まだ、こんなところにおられるのか。わたしが連れて行ってあげよう。それだから、まぁ、私の家へ寄って、ちょっと休んで帰りなさい」

 二人一緒に、歩いていたら、いつのまにかおじいさんがいなくなって、向こうからきれいな女の人がやってくる。こんなに暗いのに、きれいな女の人が、ここを通ることはないから、あいつはきっと狐が化けているに違いないと思って、すれ違うときに、男が

「お前は狐だろう。わたしは、お前のようなものには化かされないぞ」といった。

「いいや、あなたのような人を化かすのは、わたしにはとてもできません。ですが、これから人を化かして見せますので、わたしについてきて見なさい」というので、

「それなら、ついていってみよう」

 どんどんついていったら、小さな家があった。家の中にばあさんが一人いた。

「私が、今からあのばあさんに、これを食べさせてみます」といって馬の糞を拾った。

「ここに穴があるから、ここから覗いてみなさい」

その美しい人がいうので、男は穴からのぞいてみていた。女の人が風呂敷から、馬のくそを出してやると、ばあさんが

「それは、ありがたい」といって、食べかけた。男は

「あれ、あれ、食べるが、食べるが」と思って穴からのぞいていた。そのとき

「おい、どうしたのか」といって後ろから、背中をたたく人がいる。

男が気がついてみると、木の切り株にすがり付いていたそうだ。誰が背中をたたいたのかわからない。

 

 夜が明けても男は家に帰ってこない。町中のものが山の中を捜して歩いたのだが、どうしても見つからない。それからに三年たって、息子か誰かが山へ行ったら、その男が骸骨になって、木に寄りかかって、たっていた。「あっ」と思ったら、その骸骨ががらがらって崩れたという話だが、本当にあった話だかどうだかわたしは知らない。

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狐の恩返し

 

 このおじいさんは人には親切で何に対しても感謝する気持ちを持った人だった。

一番上の娘が肺病になった。おばあさんが、看病していたのだが、その娘はなくなった。つぎに、一番上の息子が肺病になった。その次の子も肺病になった。おばあさんも肺病になって、結局みな死んでしまった。最後におじいさんと息子が一人残った。それでこの家にいたのではよくない(縁起が悪い)と思ってその家から離れて、山のふもとに、小さな小屋を建てて、そこで暮らしていた。おじいさんはなんとか残った息子に嫁をもらってやろうと思ったのだが、なかなかいい話がない。貧乏だし、嫁に来てくれる人はいないだろうとは思ったのだが、墓参りをして、ご先祖様に頼んだ。

「なんとか嫁がきてくれますように」と頼んだ。

 あるひのこと、今まで付き合ったことのない人が、ひょっこりやってきた。

「あのな、このうちの息子は、なかなかいい子なので、嫁を世話してあげようと思うのだが」といった。

「さぁ、来てくれる人がおればいいのだが」と思ってじいさんは息子にその話をした。ところが息子は

「それはだめだ。わたしは嫁をもらう気はない」

「私のうちへ嫁に来ても、肺病になって死んでしまったら気の毒だ」というようなことを言った。その人が

「まぁ、そういわないで、娘に会ってみよう」

 お寺で村の人が集まるときに、息子を一緒に連れて行った。ほかの人がみな帰ってから、その人が、息子を娘に会わせて、なんとか二人で話をさせようとした。

 ところが息子がいうことには

「わたしのところに、嫁に来るな。嫁に来てもどうしようもない」

「うちは貧乏だし、それにあなたが嫁に来ても、肺病になったら気の毒だ。あなたは嫁に来ないほうがいい」

「それに、あなたの親の許しをもらわずに、あなたに会ったのは、あなたの親に大変申し訳ない。それで、あなたが家に帰ったら、あなたの親によろしくいってくれ」といって息子は自分の家へ帰ってしまった。

 その娘は家へ帰って、息子の言ったことをそのまま親に話した。そしたら親がびっくりした。

「この村にはこんな正直なものはいない。まぁ、とにかくお前が嫁に行って、お前が肺病になるかどうかは、それはわからない。息子は、これから先、いつかりっぱな人になるかもしれない。今貧乏でも、先では金持ちになるかもしれない。このことはだれにもわからないことだ。この息子はなかなか心がけのいい息子だから、お前嫁に行きなさい」と娘の親がいった。

 そういうことで、二三日もたたないうちにすぐ結婚式をあげた。

 それから、ずっとじいさんと息子と嫁さんは一緒に一生懸命働いていた。その娘もなかなか気立てのいい娘で、よく働くし、じいさんを大切にした。しかし、暮らしていくのが大変なので、じいさんはいつも山へ炭を焼きに行っていた。炭焼きへ行くのに、普通の弁当を持っていくことができない。毎日、ご飯をどれくらい食べたらいいか考えて食べなくちゃぁならない。

 弁当の代わりに、米をコップ一杯くらいタオルに包んで、腰にぶら下げて、山へ出かけていた。山で昼前まで仕事をして、それから山から下りてかゆを炊く。米と水をなべに入れて、一時間ぐらいぐつぐつぐつぐつ、強い火ではなくて、弱い火で、米を煮るように炊く。米だけではなくて、周りに生えているせりやら蓬をいれ、それに塩をほんの少し入れて、煮るように炊く。かゆができるまで、しばらく時間がかかるので、その間、炭をつつんだり、ほかの仕事をする。一時間ぐらいたって、炭焼き小屋へ戻ってみると、ちょうどいい具合に、かゆができている。そのかゆは冷やさないと食べられないので、そのかゆをどんぶり茶碗に、二杯に分けて、冷やしていた。

 そこに一匹狐がやってきた。狐は今までみたこともないような銀色の狐で、それで、おなかが大きかった。おなかに子供がいた。その狐が、じいさんに両手をついて、頭を下げてくんくんいう。

「はぁ、はぁ、お前は、このかゆが食べたいのか」といったらまた、頭を下げて、くんくん言った。

「あぁ、そうかい、そうかい。わけてやるぞ」といって、二杯のうちの一杯のほうを狐にやったら、狐はすぐには食べようとしない。

「お前、食べろよ」といっても食べようとしない。

「はぁ、はぁ、そうかい。それではわたしが食べれば、お前は食べるのか」といったら、また、うなずいて、くんくんいう。

「それでは、食べよう」といって、じいさんが先にかゆをすすり始めた。

 そしたら、狐の目から、どんどん涙が流れ出た。後から後から涙が流れ出た。それからいっしょにかゆをすすった。かゆをすすって、腹いっぱいになったので、じいさんは横になって昼寝をした。いびきをかいて昼寝をした。それで、半時間ぐらいたって、目を開けてみると狐もそばで寝ていた。

「おぉ、お前も寝ていたのか。それでは、私はここにいるわけにはいかない。山へあがって木をきらなくてはならないのだ」といって、なたを持って、山へあがった。山へあがるのに道が急なものだから、じいさんはなかなか、山の上へ上がれない。そこで、狐が先に立って道を上った。狐がその道から逃げないものだから、

「そこをどけてくれ。お前がそこにおったのでは、邪魔になるので、わたしが上に上がられないじゃないか」

 そしたら、狐が、何とか、くんくんいう。

「あぁ、そうかい。そうかい。お前は、私を引っ張って上がってやろうというのか」といって、腰に巻いていた、紐を狐の首にかけて、じいさんが紐のはしを手に持ったら、狐がじいさんを引っ張ってあがり始めた。

「やれやれ、お前がわたしを引っ張って上がってくるので、やぁ、楽だなぁ、楽だなぁ」といって上へ上がった。

 山の上へ上がって、木を切ろうとしたら、今度は狐が木を切らさない。じいさんのズボンを口にくわえて引っ張り始めた。

「お前、何をするんだ。ズボンを離せ」といっても狐はズボンを口にくわえたまま離さない。

 そして、狐に引っ張られて、別のところへ行ってみたら、見たこともないほどたくさんの香茸が生えていた。それがずらっと一塊になって生えていた。それで、その香茸を入れるものがない。それで仕方がないので、じいさんはかずらを切って、その先をとがらかして、香茸の根元に、かずらを通した。かずらを輪にして、いくつもいくつも香茸を通したかずらの輪を作った。その輪を両方の肩へかけた。それからもとのところへ戻って、かずらの輪を下ろした。そして木を切り始めた。だが、日が暮れるまで木を切っていたのではしようがない。というのは、切った木を焼いて炭にするためには、その木を下に落として、転がして落として、その日のうちに、炭を焼く釜の近くまで寄せておかなくてはならない。

「さぁ、木を切ったので、今からこの木を落とそう」と思ったのだが、たくさんの香茸を採ったので、

「この香茸をどうしようか」と思っているうちに、狐がじいさんの代わりに、この木をころころ下へ転がして落とした。人間の三人分ぐらいの速さで、その木をどんどんどんどん下へ転がして落とした。

「やぁ、うれしい。やぁ、うれしい」といって、じいさんが下へ降りたときには、木が釜のそばに寄せてあった。

「やれやれ、お前はいいことをしてくれた。すまないなぁ。すまないなぁ。お前に何かやりたいものだが」と思って、向こうを見るとたくさんの、アケビがなっていた。

「よし、よし、あれをとってやろう」といって、そばへ行ってみると、アケビは高い木のうえになっている。細長い木を切ってその先になたをくくりつけて、これでたくさんのアケビをとった。

「これをお前にやろう。食えよ」といったら、くんくん言って喜んだ。

「お前は自分の巣に帰らずに、わたしの炭焼き小屋で寝ろ。そうすれば、暖かいし、夜露にぬれずにすむ」といったらまた、くんくん言う。

それからじいさんは、香茸を肩に担いで、家に帰った。帰る途中、まちなかを通っていたら、

「お前さん、その香茸をくださいや」

「そりゃぁ、売ってあげてもいい」

 するとその人が、かなり高い値段をつけた。そしたら、ほかの人が

「わたしがもっと高い値段で買う」という。

 そういうふうなことで、すぐに売れてしまった。

 じいさんは、自分の息子より、嫁のほうをかわいがるという人であった。どうしてかというと、うちのような貧乏な家へよく嫁に来てくれた。嫁はわたしを大事にしてくれる。自分の息子は、かわいがるのが当たり前のことだが、じいさんは自分の息子より嫁のほうを、はるかにかわいがった。じいさんは、家に帰って、香茸を売って、手に入れた金を、少しだけ、自分の小遣いに取っておいて、残りは全部嫁にやった。

「今日は、これこれで、金をたくさんもうけたので、これをお前にやろう」といった。

 それから、その晩に、寝ていたら、じいさんは夢を見た。夢の中で、狐が

「おじいさん、今日は、あなたのかゆを食べさせてもらいました。ありがとうございました。おじいさんの奥さんは、昔死んだのだが、今晩はあなたの奥さんの代わりになって、舞を舞ってあげましょう」といったら、すぐに、死んだばあさんの姿になって、舞を舞った。

「やぁ、なつかしい。やぁ、なつかしい」とじいさんが言ったときに目が覚めた。

「やれ、やれ、目が覚めたか」と思ったら嫁が

「おじいさんご飯ですよ」といった。

「あぁ、そうかい」といって、朝ごはんを食べた。

 朝ごはんを食べるのにも、計算をして食べなくてはならない。腹一杯食べるというわけにはいかない。その朝ごはんを二杯食べようとしたところが

「まてよ、この一杯は、あの狐に持っていってやろう」と思って、一杯は自分で食べて、残りの一杯は、嫁さんにおにぎりにしてもらった。それをもって山に行ったら、狐が待っていた。

「昨日は、香茸が売れて、もうけさせてくれて、ありがたい。お前に、これをやろう」といって、そのおにぎりを狐にやった。

 ところが狐は、頭を下げて、すぐには食べようとはしない。

「食えや。遠慮するな」といってもなかなか食べようとしない。

「はぁ、はぁ、そうか、そうか、それでは、わたしに半分食べろというのか」ということで、おにぎりを半分に分けて、狐にやった。それから、じいさんは狐と一緒におにぎりを食べた。

 それから山に上がって、木を切ろうとすると、また狐が、じいさんのズボンを引っ張る。

ついていってみると、今度は木も何もないところで、小さな松がところどころにあるようなところに引っ張っていった。

「何にもないし、へんだなぁ」と思ったところが、狐が、足で土を掘り始めた。掘ったところをみると、マツタケが出始めた。じいさんはそのマツタケを入れるものがない。たくさんのマツタケで、初めは自分の懐に入れていた。ところがそれが入りきらないので、仕方がないから、上着を脱いで、上着を入れ物にして、マツタケを包んで、もって降りた。上半身は裸だ。それから元のところへ戻って、木を切って、それを狐に下に落としてもらって、炭焼き小屋のそばへ木を寄せてもらって、それから家へ戻った。戻るとき上半身裸なので、人が驚いた。

「じいさん、どうした」

「今日は、マツタケをたくさんとってなぁ」

「あぁ、それなら、そのマツタケをわけてくださいや」ということで、マツタケも売れた。

 たくさんお金をもうけた。そのお金で、米やら、魚やら買って、たくさん持っていって、狐と分け合って食べた。しばらくの間、狐と一緒に、この炭焼き小屋で暮らした。

 それから、狐は、子を産むころになったのだろう、突然、いなくなった。それからは狐にはまったくあわないようになった。それから、この家は、どんどん金持ちになった。

 だから、だれにでも親切にしなくてはいけない。何に対してもありがたく思う気持ちを持たなくてはいけないということだ。

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飯を食べない嫁

 

 昔、欲張りな男がいて、お金でも何でも手に入るものは手に入れて、できるだけ使わないようにしていた。せっせせっせとためてこんでいた。嫁さんは働くのはいくら働いてくれてもいいが、食べさせるのはできるだけ食べさせたくないというので、なかなか嫁に来る人がいなかった。

 あるとき女の人がやってきて、

「このうちには嫁がいないということですが、このうちの嫁にしてくれませんか」

「そうだなぁ、私はご飯を食べない嫁がほしのだが」

「私はご飯は食べません。それなので、嫁にしてください」

「そういうことなら、嫁に来てください」

 嫁に来てもらうと、なかなかよく働く、ご飯を食べない。男には弁当を持たせたり、ご飯を食べさせたりするのだが、自分は、朝になっても、ひるになっても、晩になってもご飯を食べない。

「なぁ、お前、少しぐらいはご飯を食べないと、困るだろう、ご飯を少しぐらい食べろよ」

ところが、

「いや、私はご飯は食べません。ご飯は食べたくありません」

 なんといってもご飯を食べない。そうは言っても、人間たるものが、ご飯を食べない、何も食べないで生きているということは、なにかおかしい。どうにも不思議だ。それなら、外に出た振りをしてそうぅと見ることぐらいはかまわないだろうと思って

「今日は、どこどこへ行ってくる」と言って、弁当を持って、出かけたふりをして、屋根裏へそうっとあがった。

「何か、食うんじゃぁないか」と思って屋根裏へ隠れて、そうっと見ていた。

 そうすると、何のことはない、男が外へ出るとすぐに、庭に大きななべを据えて、それへお米をバケツ一杯入れて、ご飯を炊き始めた。ご飯が炊き上がるまでの間に、隣のばあさんを引っ張ってきて、そのまあさんを捕まえて、もう一つの釜に入れて煮た。ご飯が炊き上がると、それで、大きなおにぎりを作って、ばあさんを引き裂いてはそれをおかずにして食べる。髪の毛に隠れてもう一つの口があって、その口で食べる。

 屋根裏で見ていた男は、恐ろしくて恐ろしくて、たまらなくなって、たったいま外からもどった振りをして家に帰った。

 あくる日の朝になって、

「わたしはすこし長い間、仕事をすることになって、旅に出るので、お前自分の家へ帰ってくれ」といった。

「そういうことなら、わたしはわたしの家へ帰りましょう」

 それから、その女が男の家をでたので、あとをつけていった。そうしたら、山の中の大きな洞穴の中へ入っていった。洞穴の中で女は仲間と話していた。

「あの男を今晩、殺して食べようと思う」

 男はそうっと自分の家へ戻って、近所の人に頼んだ。

「今晩、蜘蛛がやってくるので、みんなで一緒に退治してくれ」といった。

 夜になって、囲炉裏へ焚き火を炊いて、その周りへ座っていたら、天井から、ぞろぞろ蜘蛛が降りてきた。みんなで箒で、その蜘蛛を火の中へ叩き落して殺したという話だ。

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猿の婿入り

 

 昔、あるところに、おじいさんとおばあさんと三人の娘がいました。

ある日、おじいさんと、おばあさんが山の畑を耕しにいくと、猿が出てきて、

「おじいさん、おばあさん、畑を耕すのは大変でしょう。私が手伝ってあげようか」

「そりゃぁ、手伝ってくれ」

「それには、条件がある。お前のところの娘を、どれでもいいのだが、一人嫁にくれないか。嫁にくれるということなら、畑を耕してあげる」

「そりゃぁ、娘をやろう。だから、手伝ってくれ」

 猿は一生懸命せっせと畑を耕したので、畑を耕すのが早く終わりました。

「畑を耕したんだから、約束通り、娘を一人もらいにいくよ」と猿が言うと

「約束だけぇ、そりゃぁ、やろう」とおじいさんが言いました。

 おじいさんとおばあさんは家へ帰って、

「やぁ、今日猿に畑を耕してもらったが、悪いことを約束してしまった。娘を嫁にやりたくはないのだが」と思って、とても心配して、おじいさんは寝てばかりいました。

 それで、一番上の娘が

「まぁ、おじいさん寝てばかりいる。寝てばかりだが、どうしたのか」と聞きました。

それで、おじいさんが

「実は、今日、これこれで、猿に畑を耕してもらった。猿が『娘を嫁にくれ』といったので、『やる』と約束して耕してもらったのだが、お前嫁に行ってくれないか」といったら、

「わたしは、行きません。猿の嫁さんなんかには、行きません」

 それから、二番目の娘も

「わたしは、行きません。猿の嫁さんなんかには、行きません」

 それで、どれか猿の嫁に行ってくれなくては困るが、まぁ、だめだろうと思いながらも、一番下の娘に、

「お前のぅ、ちょっと言いにくいのだが、お前、猿の嫁に行ってくれないか」といってひどく泣いて頼んだら、

「そりゃぁ、行きましょう。おじいさんがした約束なので、嫁にいってあげましょう」といいました。

「いってくれりゃぁ、ほんとうにうれしい」といっておじいさんが言ったところが、

「それにはお願いがあります」

「なにかいるのか。ほしいものがありれば、なんでも言ってみなさい」

「かめを一つ買ってください」

「そりゃぁ、簡単なことだ」

 といって、かめを買って持たしてやった。娘は猿に

「かめを背負ってくれ」

 と言って猿にかめを背負わせました。猿がかめを横に背負おうと思ったら、娘は

「横に背負ったら、下に落ちて、危ないので、上へ向いて背負うてください」

といって、上に向けて背負わせました。

 それから、猿が山のほうへ帰っていきます。娘はその後をついていきます。娘は途中で石を一つ拾って、着物の袂にいれておきました。娘は橋の上を通るときに、その石を、ちゃぽんと水の中に投げ込みました。猿が

「何を落としたのだ」といったら

「今お父さんに買ってもらった大切な鏡を落とした。拾ってもらわなけりば、ついていかれません」

 それで猿が

「そりゃぁ、拾ってやろう」

 といって、橋の下へ降りて

「ここか」

「いいや、もう少し先」

「このくらいか」

「いいや、もう少し先」

 それから、そういっているうちに猿は、一足一足、先へいって、水の深いところへ行きました。

「そこ、そこ、その辺だ」と娘が言うものだから、

 猿が鏡を拾おうと思って、かがんだら、かめの中へ水が入って、猿はおぼれて死んでしまいました。

 それで娘が橋の上で喜んでいると、そこへ若い男が通りかかって、何を喜んでいるのか娘に聞いたら

「こうこうこれこれで、喜んでいる」

と娘がいいました。男はなかなか心がけのいい娘だと思って、娘を嫁さんにしました。

 親の言うことを聞いたので娘は幸せになりました。親の言うことは聞くものですよ。

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蟹のあだ討ち

 

 昔々、あるところに、蟹と猿がいた。

蟹がおむすびを拾って、猿が柿の種を拾った。猿はおむすびがほしくてならないので

「かにさん、かにさん、取替えっこをしようじゃぁないか」というわけで、柿の種は蟹にやって、おむすびを蟹から取り上げて、食べてしまった。

 それから、蟹は柿の種を植えて、毎日毎日水をかけていた。

「早く、芽を出せ柿の種。早く、芽を出せ柿の種」といって水をやっていた。

 それで芽が出たら、今度は

「早く木になれ、柿の種。木にならなければ、はさみでちょんぎるぞ」

 そうしたら、だんだん、大きくなって、うまそうな柿がいっぱいなった。

 そしたら、猿がやってきて

「かにさん、かにさん、うまそうな柿がいっぱいなったじゃぁないか。柿をたべようじゃぁないか」

 そうはいっても蟹はゆっくりしか歩けないし、木には登ることができない。猿はするすると柿木に登って、赤いおいしそうな柿を取って食べる。蟹はしたから見て、うらやましくて仕方がない。それでも自分ではとることができないので、

「猿さん、猿さん、柿を少し、私にください」

「いいよ」といって、固くて、渋いやつをポンと落としてやる。猿は自分ではおいしいやつを食べる。

「これは、固くて、渋いのでたべられない。もう少し、やわらかいやつを投げてくれ」

 それから、猿は、ほんの少し、やわらかいやつをポンと落としてやる。

「これもまた、固くて、渋いので食べられない。もっと、おいしいのを投げてくれ」

「そんなに、文句ばっかり言うのなら、自分で木に登ってとってみろ」

「木に登れないので、なんとかとってくれ」

 そうやって、言い争いをしていたら、猿が腹を立てて、柿を投げてきた。固い柿が蟹の甲に当たって、甲がつぶれて蟹は死んでしまった。蟹のおなかには子蟹がいて、親がつぶされて死んだその日に、生まれて、泣いていたら、

 臼と栗と蜂と馬の糞が遊んでいたのが、通りかかった。子蟹が泣いているので、

「どうして泣いているのか」と聞いたら、

「猿が、わたしの母の背中へ柿をぶっつけたので、母が死んでしまって、さびしい」といった。

「そりゃぁ、憎いやつだ」

「それじゃぁ、俺たちが、仇をとってやろう」

 といって、臼と栗と蜂と馬の糞が話し合って、子蟹を連れて、猿のいるところへいって

「お前、おれの家へこい。ご馳走をしてやる」

 猿が喜んで、家へ行くと

「ここへ、焚き火の中に栗が入っているので、焼けるのを待っておれ」といった。

 猿は喜んで、一生懸命栗が焼けるのを待っていたら、そしたら、栗がパーンとはじけて、猿の顔へ飛んでいった。猿はびっくりして、

「やぁ、熱い」と言って、バケツの水に顔をつけようとしたら、バケツに隠れていた、蜂が目を刺して、それで、猿はびっくりして、玄関のほうへ飛んでいったら、馬の糞で滑って転んだ。その上に、玄関の戸の上で待っていた臼がドタンと落ちてきて、猿を押さえつけた。猿は下敷きになってバタバタしているところへ、子蟹がやってきて

「親の敵を討ってやる」といった。猿は

「まぁ、許してくれ。許してくれ」といったのだが、子蟹がハサミで首を切ったので猿は死んでしまった。

 だから、悪いことをしてはいけない。みんな仲良くしなくてはいけないということだ。

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鼻が利く話

 

 昔、あるところに百姓の夫婦と男の子供が一人いた。母親がなくなったので、また嫁さんをもらった。その嫁さんにも男の子供ができた。兄弟はとても仲がよかった。しかし、後から来た嫁さんは、自分の産んだ弟のほうはかわいがって、

「お前、食べなさい。お前食べなさい」といって、いつも食べさせた。

 兄のほうへは

「お前、遊びに行け。お前、遊びに行け」といって、いつも食べさせないようにした。

 兄が遊びに行った留守に、弟に、餅やおはぎや寿司などいろいろおいしいものを作って食べさせた。ところが、兄弟は仲がいいものだから、弟は、兄が遊びに行っているときに、途中まで迎えに行って

「あのなぁ、兄さんや、今日は、うちで、寿司を作ってもらって、たくさん食べた。お母さんが『みんな食べなさい』といったのだが、『この寿司は少し角張っていて、食べにくい』といって、食べないで、兄さんに持ってきてあげた。だから、これを食べなさい」といった。

「それだが、まだ残してあるので、兄さんが帰ったら、くんくんいってみなさい。犬のようにくんくんにおいをかいで、『寿司くさい、寿司くさい』といってみなさい。お母さんがすしを出してくれる」といった。

 兄が家に帰って、くんくん犬のような格好をして、においをかいでまわると、母親が、

「お前は、どうして、そんな格好をするのか。おかしい子だ。くんくんいわなくてもいいだろうに」

「今日は、どうもすこし普段とは違う。どうも寿司のにおいがしてしようがない」といった。

 そうしたら、母親が

「あぁ、そうそう。今日はどこそこから、寿司をもらった。それだが少し残してあるから、お前も食べなさい」といって、兄にも食べさせた。

 そのあくる日にも、兄を遊びに行かせて、その留守に、弟に

「今日は、たくさん、おはぎを作ってあげる」といって、たくさんおはぎを作って、

「お前、食べなさい。お前、食べなさい」といって食べさせた。弟はたくさん食べたが、

「このおはぎは、少し熱い」と言って、少し残した。

 兄が遊びに行って帰る途中、待っていて、その残したおはぎを食べさせた。

「今日はおはぎをお母さんが作った。家に帰ったら、犬のようにくんくんいって、それから『今日は、おはぎくさい』といってみなさいや」といった。

 兄は家に帰ると、くんくん犬のような格好をして、かぎわまった。すると母親が、

「今日はどうしのだ。お前、昨日もくんくんやったが、今日はどうしたのだ」

「今日はどうも少し普段とは違う」

「どう違うのか」

「今日は、どうも、おはぎのにおいがする。わたしはおはぎが食べたいのだが、どうもおはぎのにおいがする」といった。そうすると、お母さんが

「あぁ、あぁ、そうそう。今日はどこどこからおはぎをもらったので、少し残してある。お前も食べなさい」といって、兄にも食べさせた。そういうことが続いた。

 

 あるとき、お殿様の家で、大切な宝物の巻物がなくなった。

「この巻物は、昔から伝わった大切な巻物なので、これに代えられるものはない。だれかこの巻物のありかを教えてくれたら、そのものに褒美をあげよう」という知らせをだした。

 母親が言うことには

「あのぅ、うちの息子は、どんなものでも匂いを嗅いで、そのものを嗅ぎだすのが上手なので、この子に、鼻で匂いを嗅いで、その巻物を嗅ぎださせてはどうでしょう」

「それは、そういうものがいるのなら、呼び出しなさい。その子に鼻で巻物を嗅ぎださせてみよう」

 ところが兄は困った。今までは弟がいろいろ知恵を貸してくれたので、自分は鼻が利く、嗅ぎだすのが上手だということになったのだが、今度ばかりは弟が知恵を貸してくれない。

「まぁ、お殿様の命令なので、仕方がない」といって、うちを出ることになった。弟も

「今までは、私が知恵を貸したので、兄は鼻が利くということになったのだが、本当に鼻がよく利くというのではない。鼻で嗅ぎだすことができなければ、帰してもらわれないだろう」

 別れの杯を酌み交わして、兄はお殿様のところへ行った。お殿様が

「私のところでは大切な巻物がなくなった。お前はなかなか鼻でものを嗅ぎだすのが上手だということだが、お前の鼻で巻物を嗅ぎだしてくれ。その巻物を嗅ぎだしてくれれば、お前にはたくさんの褒美を与えるぞ」といった。兄は

「いや、よくわかりました。これから鼻で巻物を探してみますので、まず、やぐらの高いのを作って、そのやぐらに部屋を一つ作ってください」といった。

「私は、その部屋で寝させてもらいます」といって、兄はその部屋で寝た。

 毎日毎日、その部屋で寝ては、くんくん犬の格好をして匂いを嗅いだ。巻物を嗅ぎだしてくれる人だということで、まぁ、毎日丁寧な扱いを受けて、朝も昼も晩も、大変なご馳走をよばれた。お殿様の家来の人が、日ごとに、

「少しはわかりますか。少しはわかりますか」と聞いた。

「まだわかりません。どうもよくわからない。少しは嗅いでみるのだが、どうもよくわからない」というようなことを繰り返し言った。

「どうもよくわからないので、もう少し、やぐらを高くしてもらえないだろうか。もう少しやぐらが高くなると、あたりに気が散るのがすくなくなる」

「それじゃぁ、やぐらをたかくしましょう」といって、殿様の家来はやぐらを高くした。

 そして毎日鼻で匂いを嗅いだがどうしてもわからない。全くわからない。

「仕方がない。このままこうしていてもしようがない」と思って、夜になって、こっそり

「とても、鼻で匂いをかいでもどうしてもわからん。自分の家へ帰りたいのだが、それもできない。まぁ、どこかへ逃げよう」と思って、お城から逃げた。仕事を放り投げて逃げた。

 山道を逃げて、峠へさしかかったところが、そこにお地蔵さんをまつるほこらがあった。そのお地蔵さんの前に小豆ご飯が十杯ほど供えてあった。日が暮れて、おなかもすいてきたので、仕方がないと思って、その小豆ご飯を一杯ほど食べた。それで小豆ご飯は九杯ほど残った。それから兄はお地蔵さんの祠の下へもぐりこんだ。

「まぁ、こんなところででも、今晩泊まらしてもらわなくてはどうしようもない。まぁ、どこへ行くといっても、日が暮れて、あたりは真っ暗だし、仕方がない」といって、ほこらの下へもぐりこんだ。

「これまでは、まぁ、弟のおかげで、鼻が利くということで、いろいろありがたいご利益があったのだが、こんどばかりはどうしようもない。お殿様のお城を逃げ出したのだから、仕置きにあうのは仕方がない。まぁ、お城にいる間は、大変ご馳走を食べさせてもらって幸せだったのだが、まぁ、もうしようがない」と思って、ほこらの下へ隠れて、寝ていた。

 ところが夜中になって、あちらこちらから、狐が、コーンコンコンコンコンといって、お地蔵さんの間へ集まってきた。狐は十匹ほどやってきたのだが、狐は小豆ご飯が大好きなので、初めにやってきた狐から、一杯ずつ小豆ご飯を食べた。最後に雌の狐がやってきたのだが、その狐の分がなくなった。兄が先に一杯食べてしまったので、その狐の分がなくなった。その雌の狐に向かって、先に小豆ご飯を食べた狐たちががいうことには、

「お前も、食べに来たのだが、お前の分はなくなってしまった。お前さんはこの前、どこどこのお殿様の巻物を取ってきて、川のそばの柳の木の下で、あれを使って巣を作って、お前、子供を生んだだろう。それで、その罰があたって、お前の分の小豆ご飯はなくなった。お前、我慢しなくてはならん」といった。

 ほこらの下で隠れていた兄は

「これは大変いいことを聞いた」といって、夜が明けてから、またお城のほうへ、そろりそろりと帰っていった。ところがお城では

「鼻かぎの息子がいなくなった」といって、大騒ぎをしていた。

「あちこちさがしたのだが、お前さんどこへいったのか。どこへいったのか」と聞いた。その息子は、逃げたとは言われないので

「ちょっと、わたしも用事があってでかけたのだが、その用が済んだので、戻ってきたのだ」

「まぁ、少しは、わかりますかな」

「少しは、匂いがするような気がするので、わたしも、ちょっと探りにでかけてみたのだ」

 そこで兄は、また、やぐらの上に上がって、

「いよいよ、わかってきましたぞ。いや、これは、まぁ、どこどこの川のそばに柳の木があって、その木下に巻物があるに違いないと思いますので、お使いのものをだしてみなさい」

 それは大変いいことを教えてくれた、ということになって、家来のものを行かせたところ、その川のそばに、柳の木があって、その柳の木の根元に、狐が巻物を使って巣を作って、子を産んだ跡があった。

「巻物がこんなところにあった」といって、その巻物を持って帰って、お殿様へさしあげた。

 お殿様は宝物の巻物が戻ってきたので、大変喜んで、兄に一生食べてもあまるくらいの米やら、褒美をたくさん与えた。兄はそれを大八車に乗せて、自分の親のうちへ帰って、一生幸せに過ごしたという風な話を私は聞いたことがある。これで、おしまい。

 

 

桃太郎

 

 昔々、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは毎日山へ芝刈りに行き、おばあさんは毎日川へ洗濯に行きました。おばあさんが川で洗濯をしていると、川上のほうから、桃がどんぶりこんぶり、どんぶりこんぶり、流れてきました。おばあさんは喜んで

「桃よ、こっちへ来い、こっちへ来い」といったら、桃がおばあさんのほうへ寄ってきたので、それを一つ食べました。それが大変おいしかったので、おばあさんは

「もう一つ流れて来い。おじいさんに持って帰ってあげよう」といったら、また桃が上のほうから流れてきました。それを拾って、持って帰って、おじいさんが戻ったら一緒に食べようと思って、戸棚の中へ入れておきました。待っていると夕飯のころになって、おじいさんが戻ってきました。

「おじいさん、おじいさん。今日はいいものを拾ってきましたよ。川で洗濯していたら、上から大きな桃が流れてきたので、拾って持って帰りましたよ。一緒に食べましょう」

「よっしゃ」といって、おじいさんが喜んで、その桃を二つに割ろうとしたら、ぽっこり桃が割れて、中からかわいい男の子が出てきました。

「これは、これは、桃を食うよりも、よけいいいことだ。桃から生まれたので桃太郎という名にしよう」といって桃太郎という名前をつけました。

 おじいさんとおばあさんは子供がいなかったので、たいへん喜んで、かわいがって大きくしましたら、どんどん大きくなって、すばらしい男になりました。ある日、桃太郎が

「おじいさん、おばあさん、私は鬼が島へ鬼退治にいこうと思います。きびだんごを作ってください」

「それじゃぁ、きびだんごを作ってあげよう」

 それから、桃太郎はきびだんごを作ってもらうと、袋へ入れて、腰にぶらさげて、どんどん歩いていくと、向こうから犬がやってきました。

「桃太郎さん、桃太郎さん、どこへ行くのですか」

「わたしは、鬼が島へ行って鬼を退治しようと思う」

「お腰につけておられるものはなんですか」

「これは、日本一のきびだんごだ」

「一つください。わたしもついていきます」

「ついてくるなら、一つあげよう」

 犬はきびだんごを一つもらって、喜んでついていくと、今度は向こうから猿がやってきて、

「桃太郎さん、桃太郎さん、どこへ行くのですか」

「わたしは、鬼が島へ行って鬼を退治しようと思う」

「お腰につけておられるものはなんですか」

「これは、日本一のきびだんごだ」

「一つください。わたしもついていきます」

「ついてくるなら、一つあげよう」

 それから、桃太郎さんと犬と猿が歩いていくと、向こうから雉がやってきて

「桃太郎さん、桃太郎さん、どこへ行くのですか」

「わたしは、鬼が島へ行って鬼を退治しようと思う」

「お腰につけておられるものはなんですか」

「これは、日本一のきびだんごだ」

「一つください。わたしもついていきます」

「ついてくるなら、一つあげよう」

桃太郎さんと犬と猿と雉が歩いていくと、鬼が住んでいる鬼が島へやってきました。見ると門があるので、雉が先に飛んでいって、中に入って中から門を開けて、それから桃太郎さんと犬と猿が中に入っていきました。

 鬼はびっくりして、金棒を振り回しましたが、犬は噛み付くし、猿は引っかくし、雉は目をつつくし、桃太郎さんはとても強いので鬼はとうとう降参しました。桃太郎さんは鬼を退治しようと思いましたが、鬼が

「命だけは助けてください。宝物はあげますので、命だけは助けてください」

 それから、桃太郎さんは宝物をたくさんもらいました。

「犬が引き出すエンヤラヤ、猿が後押すエンヤラヤ、雉が綱引くエンヤラヤ」と歌を歌いながら、いいものをたくさん持って家へ帰りました。おじいさんとおばあさんは大変喜びました。これでおしまい。