編集人あとがき

 

 今まで紹介しました『邑智郷の民話』は『島根県邑智郡石見町民話集(Ⅰ)「昔話」』および『島根県邑智郡石見町民話集(Ⅱ)「妖怪譚」その他』から収録したものです。

 

 これら二冊の民話集は、昭和59年(1984年)3月及び8月に、島根大学昔話研究会によって、田中瑩一先生の指導の元に、島根県邑智郡石見町(当時の町名、現在は町村合併で邑南町に町名を変更)で聴取録音された民間説話を文字化してまとめられたものです。この民話集の(Ⅰ)は昭和61年(1986年)5月11日、(Ⅱ)は61年7月1日にそれぞれ300部、島根大学教育学部国語研究室から印刷発行されました。

 

 たまたま今年(平成21年)5月、ほぼ20年ぶりに、これらの民話集に再び目を通す機会があり、改めてその語りの面白さに引き込まれました。しかし、元の民話集はガリ版刷りでもあり、読みにくい部分も多く含まれていましたので、元の話の語りの魅力を出来るだけ損なわないように、少しばかり手を加え、読みやすくしてみたいと思うようになりました。そこで民話集の中から面白そうなものを選び出して、パソコンに入力して、プリントアウトし、手作りで製本していました。しかし、手元に置いておくだけではつまりませんので、出来上がるとその都度、身近な人にも読んでもらっていましたが、これが、私が考えていました以上に反響があり、喜んでもらうことが出来ました。

 もともとは自分で楽しんだり、身近な人に読んでもらいたいと思ってはじめたことでしたが、予想外に好評だったものですから、そのうち、インターネットを通じて、より多くの人にも紹介してみたいと考えるようになりました。

 そこで、民話集作成の責任者である田中先生や民話集の作成を陰で支えられた町の教育委員会の了解を得た上で、7月中旬頃から、民話集のインターネット版の作成に取りかかり、8月はじめには発表できる体裁を一応整えることが出来ました。その後イラストを入れるなどして、更新を続けて現在に至っています。

 

 元の民話集の表題は『島根県邑智郡石見町民話集』ですが、町村合併のために、石見町という名前そのものがなくなったこともあり、また、旧石見町の中心部である、『矢上、中野、井原』の三つの村がまとめて昔『邑智郷』(おおちごう)と呼ばれてきたということもあり、民話集の表題を『邑智郷の民話』とすることにしました。しかし、ただ、邑智郷といっても場所がわからない人も多いだろうと考え、「石見国」をさらに付け加えました。

 また、この民話の中に出てきた方言(と思われる言葉・一般には広島弁と呼ばれていますを抜き出し、民話の中には出てこなかった方言も付け加えて、『邑智郷の言葉』としてまとめてみました。

 このようにして出来上がったのが、今まで紹介しました『石見国・邑智郷の民話と言葉』です。

 

 ともかく、これらの民話を読まれ、楽しんでいただければ幸いです。

 改めて、これらの民話を語られた方々およびその民話を民話集としてまとめられた方々に深い敬意を払うものです。また、これらの民話をインターネット上で紹介することにつきまして、快く承諾していただきました田中瑩一先生および邑南町の教育委員会様には心から感謝申し上げます。

 

      平成21年(2009年)12月8日  天邪鬼

 

(古い資料ですが、昭和12年に発行された森脇太一編の「邑智郡誌」の中には、「邑智」の文字が使われ始めたのは、戦国時代からであり、平安中期の和名抄では「邑知」が用いられ、さらに古くは「於保知」が用いられていた、と記されています)